光の塊
これはもしかしてというか、一体なんだ!?
地面に光り輝いた文字が、次第に浮き上がってくる。
そして、その光の文字を見ると、何とそれは僕が先ほどつぶやいた言葉であった。
『僕のささやかな異世界生活はここで始まり、ここで終わる。誰の記憶に残ることもないが、ささやかな僕の思いをここにそっと置いていく』
ギャー!
恥ずかしい。ゴブリンが言葉を理解できようが、できなかろうが、そんなの関係ない。一刻もここから早く逃げ出したい。
そんな僕の思いをつゆ知らず、光の文字はとうとう宙に浮き上がった。これから果たして何が起こるのか。ゴブリンもポカンと口を開けたまま、立ち尽くしている。
すると、光の文字が一箇所へと集まっていき、大きなボールのような光の塊になった。光の塊は、そこに留まるかと思ったが、ゴブリンへの方向へと向かっていく。
逃げ惑うゴブリンを、光の塊は一瞬で飲み込んだ。光が消えるとともに、ゴブリンもいなくなっていた。
一体何だっただろう。僕はその場にへなへなと座りこむ。先ほどより身体ひ力が入らず、しばらくの間そのままでいた。
日が暮れてきたので、村へと戻ることにした。さっきのはこの世界で宿った僕の特殊能力か何かだろうか。純ちゃんが帰ってきたら、何か知っているかもしれないから、聞いてみよう。
「先にかえっていたかの。今日はゆっくり休めたかの」
「お陰様で、ゆっくり休めました」
「むっ…」
純ちゃんは僕の顔をじっくりと見ている。
「何か顔についていますか?」
「お主、疲れているな。嘘は良くない。嘘つきは、ワシは嫌いじゃ」
「…ごめんなさい。結構つかれています。色んなことがありしまして…」
さすがの純ちゃんだ。何もかもお見通しなのかもしれない。
「ほう、やはりな。何があったか正直に言ってみるが良い」
「今日実はこれこれああいうことがありまして…」
純ちゃんは僕の話していることに対して、ウンウンと頷いている。時よりなるほどと、口にする。
「これって一体何なんでしょうか。僕の身体に何か異変が起こっているのでしょうか?」
「それはズバリな…」
「はい」
僕は唾をゴクリと飲み込む。
「それはズバリ…分からん!」
「!?」
何やねん。それ!っと、関東人である僕は関西弁でツッコミたくなった。
「まあ、このクソジジイって顔をするな」
そこまでは思っていなかったが、言われてみると、そういった感情がふつふつと湧いてきた。
「分からんと言ったが、だいたいのことは分かる」
このクソジジイは何言ってんだと、口にしたくなったが、そこは何とか気持ちを抑えた。
「皆、人間、何かしら特別な能力を持っている。一番でなくても、その人にとっての得意なことじゃ」
純ちゃんが真面目な顔で話し始めたので、真面目に聞くことにしよう。
「ワシにはこの怪力がある」
純ちゃんは大きな力こぶを作る。前言を撤回して、このクソジジイと口にしようとしたが、思い直した。確かに畑仕事での収穫作業は見事なものであったのは確かである。
「ワシにあるのじゃから、何かしらの特別な能力が備わっているはずじゃ。きっとその光やら何やらを生み出すのが、タモさんの特別な能力なのかもしれん」
特別な能力。そんなものが僕にあるのか。この世界に来る前にはそんなもの、僕に備わっているとは考えられなかった。
「まあ、疲れているのじゃから、今日はゆっくり休め」
「はい」
僕は素直に純ちゃんの言葉に従った。疲れているからか純ちゃんの言葉が僕を納得させ、安心したからかわからないが、異様に眠くなったのだ。
おやすみなさいと僕は純ちゃんに言った後、純ちゃんもおやすみと笑顔で言った後、真剣な顔つきで何かを考えているようだった。
あれは何だったんだろうと思ったのもつかの間、僕はベッドに横たわった瞬間、泥のように眠った。