立ち塞がる壁
朝日とともに自然と目が覚めた。身体中が痛い。久々に身体を動かしたこともあり、全身筋肉痛だ。
大きく伸びをすると、危うく両腕が攣りそうになった。
「おはようございます」
「おはよう」
昨日と同様に純ちゃんは朝食の準備をしていた。
僕は昨日の不甲斐なさを反省し、出来上がった朝食をテーブルまで運んだ。
「今日も収穫作業ですか?」
「そうじゃの」
昨日の万全な状態で全く歯が立たなかったので、満身創痍の今日は、とてもじゃないが役に立てる気がしなかった。それを察してなのか、純ちゃんが優しい口調でこう言った。
「タモさんも昨日動いたから、疲れたじゃろ」
「若いので大丈夫です」
「今日はゆっくり休め」
「いやでも、住まわしてもらって、食事も作ってもらっている僕が何もしないわけには…」
「何を言ってる。身体をしばらく休めてしっかり働いてもらう」
「いやでも…」
「年寄りの言うことは聞くことじゃ」
「…分かりました。ありがとうございます」
僕は純ちゃんの言葉に甘えて、一日休ませてもらうことにした。が、いかんせん、この村には娯楽がなさそうだ。
だからといって、このままじっとしているわけにもいかない。
そうだ。この村を一通り周ったが、もしかしたら僕が知らない村人の楽しみがある場所があるかもしれない。
純ちゃんが出ていくのを見送った後、とりあえず外に出てみる。
あまり人気がなく、時折ゆっくり歩いている老人を見かけるくらいである。
こういった場所は市場とか開いているイメージがあったが、そういった賑わいのかけらもない。
村の入口とは反対の出口を目指して歩くことにした。
周りには民家が広がっている。そして、歩けど歩けど民家しかない。ただ、これだけ民家があるという結構な人数の村人がいるのだろう。
老人が多いとはいえ、なぜ村人をあまり見かけないのだろう。純ちゃんのように朝早くから働きに出ているのか。もしくはほとんどが空き家が、実際には人が住んでいないのか。実は村人みんな、僕みたいなインドア派なのだろうか。
そんな訳がない。僕は憧れの異世界に来たのは良いが、これからどうしたらいいのだろうか。以前の僕の学生生活も平凡なものだったが、これでは何も変わらない。
芝生に寝っ転がり、空を見上げる。いい天気だ。この世界の空も青い。何も変わらない。何も変えられない。
何か変えないといけない。僕は思わず立ち上がる。そして、気づいたら走り出していた。こんなに全力で走ったのは、いつぶりだろうか。
「ハーハー」
走ったのはいいものの、僕は力尽きて倒れこんだ。再び寝転びて、空を見上げる。雲がゆっくり流れているのを目で追う。
僕は周りの人に流され、周りに合わせて今まで生きてきた。それが楽であったし、周りの人にもそれが迷惑をかけない方法だったからだ。きっとこの世界でも、そんな僕は変われないだろう。
そんなことを考えていると、何だかバカらしくなってきて、僕は立ち上がる。純ちゃんの家に帰ろう。そう思って僕は村の方向へと向き直す。
すると、するとだ。
何とそこにはゴブリンらしき生物が僕の目の前に立っていた。