表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/9

第一歩 

「この村の秘密はの…」


僕はもう一度唾をゴクリと飲む。


「ワシが村で2番目に若い!」


「え!?」


「まあ、見た目通りじゃ」


 いや、おかしいだろう。どう見てもおじいちゃんじゃん。あれ、一番若いのは…あー、昨日の少女か。どうせ大したことではないと思っていたが、驚かされた。 


「確かに驚かされましたが、それって秘密じゃなくて、単なるビックリする事実ですよね」


「タモさん厳しいこと言うの」


「何でこの村は老人…」


「老人?」


じゅんちゃんの眉毛がピクついた。


「いえ、若い人が少ないんですか?」


「それはな、秘密じゃ」


 結局本題の秘密はこっちではないか。秘密というくらいだから、人に話せない、あるいは話したくないことなのだろう。これ以上追及するのはやめよう。


「間違えたの。ヒ・ミ・ツじゃ」


 茶目っ気たっぷりにウィンクをしたじゅんちゃんを、少しかわいいと思った僕が恨めしい。


「秘密なのは分かりました。今日は仕事か何か手伝えることはありますか?」


「そうじゃなー。畑仕事でもいっちょやってもらおうかのー」


 畑仕事か。小さい頃に芋掘りをしたくらいしかやったことがない気がする。


「畑仕事ですね。役に立つか分かりませんが、お手伝いさせてもらいます」


「じゃあ、早速出発するかの」


 大きな籠を背中に背負って、畑まで歩いて移動することになった。しばらく歩いていくと、大きな畑が見えてきた。色々な作物があるようだ。今日の朝食べた野菜炒めの人参らしきものが植えてある。


「じゃあ、引っこ抜いたら、この箱に入れておいてくれ。頼んだぞ」 


「え!?」


 純ちゃんはそう言い残して、直ぐにいなくなった。説明はこれだけなのか。あまりにシンプルな説明であったため、少し戸惑ってしまう。

 

 まあ、とりあえずやるしかないか。

 

 少し屈んで、人参の根本辺りを掴み引っ張る。しかし、抜くことが出来ずに全く動かせない。僕が力がないとはいえ、人参すら抜けないなんてことはあるまい。

 もう一度試そう。今度は渾身の力を込めて引っ張ろう。


「うーん。ふんっ!」


 その掛け声とは裏腹に、やはり人参を抜くことが出来ない。

 なんてことだ。もしかしたら、僕は異世界に来て力を失ったのかもしれない。

 こうなったら何としてでも引っこ抜きたくなる。焦らず考えてみよう。そうだ。周りの土を少しずつ除ければ、何とかなるかもしれない。


 スコップなどの道具は持っていなかったため、手で土を掻き出してみる。 

 だいぶ掘れてきた。おそらく、人参本体の半分位は地表に露わになっただろう。これで絶対抜けるだろう。

 だがしかし。二度目の渾身の力も虚しく、少し動かせた程度であった。

 異世界特有の農業スキル等が必要なのだろう。そうに違いない。少し休んで、純ちゃんが帰ってくるのを待とう。


 しばらくすると、純ちゃんが少し遠くから叫んでいる。


「どうだー。カゴいっぱいに取れたかー」


 僕はバッテン印を両腕でジェスチャーする。


「何じゃー。こっからじゃ、見えんわ。口で言えー」


「全く取れませんでしたー」


「何じゃー。全然聞こえんぞー」


「ふっ」


 僕は諦めて、空を見上げた。純ちゃんが着くのを黙って待つことにした。

 待つこと3分。


「何じゃ。サボってたのか」


「いえいえ、違います。頑張って取ろうとしたんですが、全く駄目だったんです」


「そんなに若いのにそんなことはなかろう」


「本当ですって。もしかして、農業スキルとかの特殊スキルが必要だったりしますか?」


「何言ってるんじゃ、お主。もしかして頭でもどっかに打ったかの?」


 どうやらこの世界にそんなものはないらしい。どうしたものか。


「そうですね。記憶を失った時に頭を打ったのかもしれないです」


「きっとそうじゃろ。だったら無理するでない」


「すいません」


「じゃあ、そこに座って、待ってるんじゃ」


「はい」


 僕は傍らで静かに体育座りすることにした。純ちゃんは服の袖を捲り上げる。僕よりか逞しい腕をしている。


「じゃあ、やるかの」


 純ちゃんの動きが一瞬止まる。


「ふぉっ!」


 そう力強く言い放ったじゅんちゃんの声とともに、人参は抜けた。


「これ位朝飯じゃ」


 純ちゃんは軽くドヤ顔をした。朝飯を既に食べた後であるので、このセリフにはツッコみをしたかったが、何とか堪えた。


「凄いですね。僕にはどうやっても抜ける気がしませんでした」


「じゃあ、少し一緒にやって慣れるしかないの」


「お願いします」


 その後、付ききっきりで人参の収穫を教えてもらった。


「こうして、垂直に引っ張るんじゃ」


「こうですか?」


「そうじゃ」


「うーん」


「もっと力を入れて」


「うーん…駄目です」


「まあ、今日は初日だから、そろそろ帰るかの」


 純ちゃんの傍らのカゴは、一杯の人参で詰まっていた。


 これから先のことが思いやられる。そんな一日であった。











評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ