異世界降臨
異世界。
それは今の世界から逆転できる唯一の場所。
憧れでもあり、非現実的な未知なる空間。
少し前までの僕は、そんなことを思っていた時期もありました。しかし、今はこうして異世界にやってきた。
僕の新たなる人生はここから始まる!
目が覚めていつものように朝がやってくる。この春から高校生になり、気分を新たに生活を迎えるつもりだった。
中学時代は地元の公立中学校に通い、地味な生活を送っていた。高校は絶対変わってやると胸に秘めたまま入学したものの、結果は変わらなかった。
部活には入らず、特別に仲の良い友達もおらず、家と学校をただ往復する毎日を送っていた。
家で中学時代と同じRPGのゲームをやりながら、僕の人生はこれからもこんな感じで、ただ何となく過ぎていくのではと、高校生ながらにして悟った。
そして、明日も今日と同じような日を送る。その時はそう思っていた。
だが、その時は突然にやってくる。
僕に明日はなかった。
僕はいつものように夜遅くまでゲームをして、その後ベッドへ横になった。
そして、横になったまま起き上がることはなかった。
どうやら寝たまま膜下出血となり、この世を後にしたらしい。僕自身なぜ知っているか、理由は分からないが。
その後、どれくらい暗闇をさまよっただろう。どれくらい眠っていただろうか。そして、目をそっと開くと、見たことのない場所に僕はいた。
辺り一面には草原が広がっている。
少し遠くには建物が立ち並んでいる。村だろうか。
時折吹く風が心地いい。
そして気がつくと再び目を閉じて、眠りについていた。
「大丈夫かい?」
その声に、はっとして目を覚ます。
「大丈夫です。…ここは?」
「マサラ村じゃよ」
どこですかいっ!と心の中でツッコみをいれたくなった。
「記憶が少しなくなってまして。すいませんが、村を案内してもらっていいですか?」
「何と、記憶がないと。それはそれは大変ですな。それでは早速案内させてもらいます」
「そういえばあなたのお名前は?」
「ははっ。名乗るほどの者じゃないよ」
いや、名乗ってくれよ。再び心の中でツッコみをいれた。
「ふぉふぉふぉ。冗談じゃよ。ワシの名前は高田純三じゃ。じゅんちゃんって呼んでね」
「高田純三さん、これからよろしくお願いします」
「純ちゃんね」
かわいくウィンクをする純三さん。
「純ちゃんさん…純ちゃん、これからよろしくお願いします。僕の名前は田森将って言います」
「田森将君か…じゃあ、タモさんて呼ばしてもらうよ」
「タモさんですか…初めてそんな呼ばれ方しましたが、構いませんよ」
タモさん。悪くないなと思いつつ、恐れ多いなとも思った。
村を早速案内してもらうことになり、しばらく歩いていて、あることに気がついた。
それは村のどこを見ても老人しかいないということだ。
「こんにちは」
「こ、こんにちは」
行き交う老人みんなに挨拶をされる。
普段そんなに挨拶をされない僕にとっては、何か不思議な気分である。
「みなさん、お元気ですね」
「あー、そうじゃなー。ほとんどの者は元気じゃ」
じゅんちゃんは、はつらつとした声でそう言った。
「ほとんどの者?」
僕は首を傾げた。
「あそこに家に住んでいる者なんか寝たきりじゃ。俺たちが看病せねばならない」
「身体が不自由か、病気か何かですか」
「まあ、そんなところじゃ」
「挨拶だけでもしていいでしょうか」
「構わんが…もしかしたら、寝てるかもしれないが」
「失礼します」
僕はそっと家の扉を開けた。
純ちゃんが予想したとおり、そこには横たわっている人がいた。そして、僕はこの村にやってきて一番驚いた。
なんとそこには、少女がいた。
少女と言っても年齢は僕と同じくらいだろうか。目を閉じているが、吸い込まれそうなほどきれいな白い肌をしていた。
「この町にも子供がいるんですね。他にも子供は…」
「ごほっ、ごほっ」
「すいません、起こしてしまいましたか?」
「いえ、いつも寝てるので構いませんよ」
そう言って彼女がニコっと微笑んだ後、こちらをじっと見ている。
何て大きな瞳なんだろう。
今度は瞳に吸い込まれそうになる。
僕が見ているせいか、彼女の見つめられる。こんなにじっと見られると、照れてしまう。
数秒の間、お互いに見合った後に彼女が小さな声で言う。
「タモさん?」
「えっ!?」
彼女のその声にビクッとした。