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【完結】キスの練習相手は幼馴染で好きな人【連載版】  作者: 猫都299


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67 番外編(篤視点) キスの練習相手は義妹で好きな人③


 要求された事案に驚愕して唾を飲み込んだ。可愛い我が妹の名を呼ぶ。


「美緒」


 彼女の両肩を掴んで改まる。瞳を見つめた。


「そういうのは普通、好き合っている者同士でする事だろ? 協力はするけどキスはまだ早い」


 善人ぶって諭した。美緒の表情が見る見る歪みを帯びてあからさまにダメージを受けている様子だと分かる。苦笑して言った。


「美緒が俺を好きになればいい」


「問題ないよ!」


 即答した妹に、つい笑ってしまう。彼女は俺の事を兄と慕ってくれている。分かっているつもりだ。恋愛の「好き」じゃないって。溜め息をついた。


「問題あるよ。色々と」


 愚痴のように呟いた俺に妹は呆れているような目線を寄越した。


「お兄ちゃんこそ、ちゃんと私を好きになってよ?」


「くふぅっ!」


 妹のセリフが胸に刺さってしまい床に膝をついた。


「どうしたの、お兄ちゃんっ?」


 美緒が心配して声を掛けてくれるが正直に言う訳にもいかず「何でもないんだ。ごめん」と謝った。胸の中央を押さえ呼吸を整えた後、再び立って妹と向き合った。動悸のせいで彼女の目を見れない。こんな調子でキスなんてできるのだろうか。


「……難題だな」


 一抹の不安が口から漏れる。キスなんてしたら勢い余ってそれ以上の事もしてしまうかもしれない。自制できる自信がない。ちらっと様子を窺う。何故か彼女は項垂れている。


「分かった。今日はしなくていい。だけど明日の夜八時に私の部屋に来て」


 それだけ言い残し、彼女は部屋を出て行った。




 次の日の休み時間中、美緒が俺のいるクラスへ来た。


「み……」


 名前を呼んで席を立とうとした。妹は俺に用事があるんだと思っていた。しかし彼女が赴いた先は教室の中央。窓際の自分の席からその場面を見ていた。


 美緒は俺の方へ視線を向ける事もなく、迷わず沼田君のいる場所へ歩んだ。二人で何かひそひそ話をしている。


 二人を見つめていたところ美緒と視線が合った。直後、彼女は踵を返して教室を去った。


 俺は内心ショックを受けていた。妹が俺じゃなくて沼田君と話す為だけに学年の違うこの教室まで足を運んだ事に。


 沼田君は美緒が去った出入口の方向を見ていた。隣に並んで立つ。


「随分、美緒と親しそうだったね」


 自分では穏やかに言ったつもりだった。声は落ち着いていた。しかし目元が意思に従わないでいる。笑顔を作りたかったのに失敗したようだ。沼田君がぎょっとした顔で半歩後退している。


「何の話をしてたの?」


 どうしても気になってしまい直球で聞いた。


「あー。悪い。お前には話せない」


「話せ……ない?」


 呆然と沼田君の発した言葉を繰り返した。彼は補足する。


「ちょっと相談に乗ってて、秘密にしてほしいって言われてるから」


 ダメージが大き過ぎて思考がうまく働かない。


「美緒……俺よりも沼田君を相談相手に選んだのか。悩み事があるのか? ……いや、違うな。美緒はきっと……沼田君に近付く為に……」


 無意識にギリッと奥歯を噛み締めていた。独り言ちる俺を沼田君が呆れたような目付きで見ている。彼は言う。


「何で自分の妹の事だけ鈍感なんだ」


「……何? 鈍感? 君に言われたくないね」


 反論して心の内で付け足す。美緒は君の為に健気に頑張っているんだよ?

 怒りのようなものが湧くのを感じる。おかしい。沼田君にこんな感情を抱くなんて。



 昔から俺を巡って争う女子たちがとても嫌だった。女の子は苦手だ。勝手に期待して、勝手に落ち込んで、勝手に怒って……俺の事を勘違いしている。


 もてはやされるべきなのは沼田君のような人だよ。過去に俺と付き合ってきた女子たちは見る目がない。


 彼女たちを「平等」に扱う為のルールがある。


 付き合ってもキスしない。もちろんそれ以上の接触もナシだ。手を繋いだり、抱きしめたりまでなら何とかできる。一週間付き合う内の最終日に行うのがベストだ。大抵は泣いて別れを惜しんでくれる。「いい思い出」としてサヨナラする。そんなルーティン。


 たまにルールに従おうとしない子がいる。大体は「ほかの子ともしたら嫌だろ?」って言ったら納得してくれる。それでもいいと言う人には「スケジュール管理してる委員に言い付けてしまうよ?」って脅す。抜け駆けする子はほかの女子から嫌われて村八分にされる事もあるから大人しくなってくれる。


 どんな女子も美緒には敵わない。俺の唯一の癒し。美緒がいるからこの殺伐とした世界を頑張って生きれる。

 もちろん沼田君も俺の命の糧だ。最高に尊敬している。彼はそのままで存在自体が十分凄いのに、己の力に甘んじず更に高みを目指し研鑽を積んでいる。尊過ぎる。そんな姿を同じクラスで見守れるこの幸福を日々感謝して学校生活を送っている。


 俺が自分の思考に集中している間、沼田君は席に着いて昼寝をしようとしていたらしい。机に伏せている彼が不意に身を震わせ何か呟いた。


「あれ? 今ゾクッとした。風邪か?」



 さあ問題は今夜だ。可愛い妹を前に、俺は耐える事ができるのだろうか。


いつもお読み下さり、応援もたくさんありがとうございます!

ほかの小説を書いていて遅くなりましたが久々に更新しました。


取り敢えずここまでで完結にしておきます。書かねばならない小説が溜まっていてそちらの方にも着手したいと考えています。また書けそうな時に続きを書くかもしれません。よろしくお願いします。


追記2024.6.7

「後にした」を「出て行った」、「窺った」を「窺う」、「美緒は」を「彼女は」に修正、「美緒の」を削除しました。

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