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【完結】キスの練習相手は幼馴染で好きな人【連載版】  作者: 猫都299


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43/67

43 準備


「その……。準備して五時頃、来てくれる? それまでに片付けたりするから」


「了解」


 柚佳の指示した時間に頷きアパートの階段を上がった。


「また後でね」


 階下で柚佳が手を振ってくれている。オレも笑みを浮かべて彼女へと右手を揺らした。


 さて。


「ただいま」


 我が家へと帰り、台所の壁に掛かっている時計を見た。今、一時半か。五時まで三時間半ある。……いや、三時間半しかない。


「あっ! ちょうどいいところに! 海里おかえりっ! ラーメン作って!」


 居間から出てきた陽介の要求に応え、袋ラーメンを鍋で茹でた。どんぶりに入れた具なしのラーメンをテーブルの上に置いた。オレの分も置いてさっそく食べ始める。陽介もテーブルに着き、箸を握って食べようとしていた。


「海里、何か急いでる?」


 弟の指摘に慎重に答える。


「ああ。ちょっと行くとこあって。あっ、今日友達の家に泊まるから母さんたちにそう言っといて」


 弟の目が不穏な空気を孕みニヤリと細まった。


「ほう……? 海里にも友達いたの? ってか柚姉ちゃんだろ」


「ふぐっ」


 暫く咽せた。


「違うし! 和馬んちだよ! テスト前だから、ほら…………分からないところ教えたり……」


「海里。オレの目を見るんだ」


「……」


 オレはあからさまに右を向いて陽介と視線を合わせないままラーメンを食べ切った。弟はまだこっちを見ている。オレから目を離さずゆっくり麺を啜っている。物凄く怪しまれているみたいだけど本当の事も言えないので精一杯澄ました顔で食器を洗った。


 制服の上着を脱ぎ、替わりに薄手の黒いジャンパーを羽織る。勉強道具一式は鞄に入っている。思案して置いて行く事にした。柚佳の家へ行く前に向かわねばならない場所がある。そこへは少し距離があって荷物になるので、用が済んで戻った時に一旦ここへ寄って持って行くつもりだ。


 財布をズボンのポケットに入れ家を後にした。最後まで……陽介の視線がオレへと刺さり続けていた。




 歩いて十分程の所にある商店街の本屋で、オレは熱心に立ち読みしていた。


 もちろん参考書ではない。オレが手に取った本のタイトルは『恋によく効く! 恋愛指南の書 基礎編』。


 ……。……! なるほど。


 目から鱗の内容だ。相手のちょっとした仕草から好意があるか読み取ったり、どういった人物がモテるのか等、今まで知ろうとしてこなかった分野の知識がそこにはあった。


 オレはこの本に書かれているテクニックを、あと二時間で頭に叩き込まなくてはならない。


 テスト前の貴重な時間に何やってんだって思われるかもしれない。しかしオレは切実だった。柚佳を振り向かせる為に手段を選んでいられない。


 今まで女子と付き合った事のなかったオレ。女友達もずっと柚佳だけだった。


 さっき『柚佳が誰を好きでも。オレ以外考えられなくさせてやる』と決意したものの、もちろんオレには何の策もなかった。


 片っ端から暗記するつもりで臨んだ。

 読み込んでいる筈なのに、いつの間にか柚佳の事を考えている。明るく嬉しそうな顔。右下に目線を逸らし頬を染めた表情。

 ………………バスで一瞬だけ見せた、驚きと不安を宿した目。


「ねぇ、何の本読んでるのー?」


 突然大きな声がして我に返った。傍にいつの間にか男の子が立っていた。オレの着ているジャンパーの端を掴んでじっと件の恋愛指南本を見つめている。さっきの言葉は彼の発したものだった。小学校低学年くらいの背丈だと思った。

 すぐにその子の母親らしき女性がやって来て、謝りながら男の子を連れて行った。


 本屋の壁にあった時計が四時を指している。もう一時間半も経っていたのか。

 そろそろ行こう。長々と読んでいた割には本は買わず店を出る。


 本を買わずに浮いた分、商店街の端にあるケーキ屋で柚佳の好きなフルーツケーキを二切れ買った。コンビニに寄ってアパートへ戻った。


追記2023.10.2

「オレのジャンパーの端を掴んでじっと本を見つめている男の子。小学校低学年くらいの背丈だ」を「傍にいつの間にか男の子が立っていた。オレの着ているジャンパーの端を掴んでじっと件の恋愛指南本を見つめている。さっきの言葉は彼の発した言葉だった。小学校低学年くらいの背丈だと思った」に修正しました。

「言葉」を「もの」に修正しました。


追記2025.11.4

改行を調整しました。

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