40 独り言
「えっ……そうなの?」
驚きで花山さんをガン見する。
「てっきりその『マキ』って子の仲間が撮ったのかと思ってたけど、花山さんだったのか」
「うっ……。私が悪かったわ。マキちゃんに頼まれたからとは言え。あの日、帰ろうとしてたら下駄箱にメモが入っててマキちゃんからだったの……。空き教室でマキちゃんと桜場君のやり取りを聞いた日の呼び出しに応じたからその分協力してって書いてあったわ。沼田君が来る前にマキちゃんと会って打ち合わせをして、廊下の窓からバス停を見張ってたマキちゃんの合図で隣の教室に身を隠してドキドキ待ってた。マキちゃんはえーと、そこ!」
花山さんが掃除用具入れになっているロッカーを指差した。
「ロッカーの横、壁との間にまあまあ隙間あるでしょ? そこに隠れてたみたい。私も音を立てないように気を付けて、タイミングばっちりで写真を撮って走って逃げたわ。その後マキちゃんと落ち合ってカメラを返した。昨日の朝、お礼と書いてある封筒が下駄箱に入ってて中身はその時の写真だった」
首を竦めている花山さん。
「だから柚佳ちゃんが昨日、沼田君と付き合ってる事を打ち明けてくれた時『抜け駆けで卑怯だった』って自分の事を貶めてるみたいに言ってたのを聞いて全然しっくりこなかった。だって私の方がずっと卑怯で狡く動いていたんだもの。柚佳ちゃんには前もって沼田君からラブレターをもらったって伝えてたし、あまり沼田君と親しくしてほしくないって内容の事を言ってたの。……今思えば物凄く酷な事してたわ、私。本当ごめん」
花山さんは柚佳へ苦笑いした。
「けど柚佳ちゃんが本当のところを教えてくれて嬉しかった。ずっと私が沼田君を好きだと思って遠慮してくれてたでしょ? 写真を撮った日、沼田君が柚佳ちゃんを桜場君から引き離して連れて帰ってた時……柚佳ちゃんが振り返って私の事を見たの。柚佳ちゃんの方が沼田君を好きなくせに、私なんかの事を気にしちゃって。もっと狡賢く生きればいいのにってちょっと呆れた」
両手の甲に頬杖をつく格好をした花山さんは澄まし顔だ。
「花山さんは狡賢過ぎだろう」
オレが花山さんへツッコミを入れると透かさず和馬がオレへツッコミ返す。
「そこが美南ちゃんのいいところだろ! それに全然賢くない! 『マキ』って子のパシリしてるだけじゃん。アホなんだよ。それに気付いてないところも間抜けで可愛いんだ!」
和馬の暴言に花山さんの目が釣り上がっている。
暫く和馬と花山さんのちょっとした口喧嘩のようなやり取りが続いた。オレはそれを微笑して眺めていた。……眺めているフリをして横目に柚佳を盗み見ていた。
今日は柚佳の口数が少ない。どことなく元気もない気がする。昨日オレが彼女と篤の仲を疑って冷たく当たったからかもしれない。
あの日……篤から柚佳を奪って手を引いて帰った日。教室を出る時に柚佳が後方を振り返っていた。篤を見ていると思ってオレは大層傷付いていたんだが、花山さんの話からそれは誤解だったと分かった。
柚佳は篤じゃなくて花山さんを見ていたのか。
冷たかった心に灯が点るような、ほっと気が抜けた心地だった。
もしかしたら篤と柚佳の関係もオレの考え過ぎなのかもしれない。……そう信じたいけど弱い心が軋み出す。
柚佳が篤を選んでオレから離れて行くかもしれない未来を恐れて、先回りして傷付かないように振舞おうとしている自分がいる。
俯いて少し笑った。
「オレが一番狡いや」
追記2022.12.5
「柚佳を」を「彼女を」に、「彼女。」を「柚佳。」に修正しました。
追記2024.5.19
「の」、「わ」を追加しました。
追記2024.6.1
「今日は口数の少ない柚佳」を「今日は柚佳の口数が少ない」に修正しました。
追記2025.11.4
改行を調整しました。




