表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】キスの練習相手は幼馴染で好きな人【連載版】  作者: 猫都299


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/67

37 山と谷


 左手で押さえていた彼女の手を握る。上に持ち上げて掌同士が触れる。瞳を見交わしたまま、指の一本一本を絡め合わせる。握り合った手を引いて導く。


 挟んだり舐めたり弄ぶ。浅く深く……短く長く探り合う。


 戯れは熱量が増し、引き返せないところまで来た。もう勝負の事なんて頭になかった。ゆっくり柚佳を仰向けにし、覆い被さる格好でキスを続けた。お互いの中にある愛を、確かめ合うように一心に。


 オレの強い望みが次第に切迫して、吐息と共に唇を放す。懇願するように見つめてしまう。どこか熱っぽさのある、少し虚ろな瞳で柚佳が笑う。


「海里……好きだよ」


 片想いだった時にはあった心の空洞部分が、大切なもので満たされたような……泣きたい気分だった。


「オレも」


 上手く言葉が見つからなくて、簡素な返事になった。右手で白い頬をなぞる。


 いつも会う場所・時間に、いつもと違う事をしていた。どこか現実味がない。雨音が遠くでしてる。


 この日のオレたちは、キスの先にある道を少しだけ進んだ。




 二人の気持ちが通じ合っていると認識し。一旦、落ち着いたら。別の焦りが訪れる。

 今の今まで時間なんて忘れていたけど、さすがにもう陽介も帰って来る頃だと慌てる。


「この勝負、オレの勝ちだよな?」


 思い出して柚佳へ、ニヤッと笑う。


「な、何で?」


 柚佳が驚いた顔をした後、頬を膨らませている。頭を撫で、抱きしめる。


「分かってるくせに」


 意地悪く笑って囁く。


「……~~~~」


 柚佳はオレの胸に顔を埋めて、不満があるように唸った。


 …………キスしていた時、更にメロメロにされた事は内緒だ。



「言う事聞いてくれるんだよね? そうだなぁ……」


 篤と柚佳の『関係』について聞くか、篤が柚佳にした『お願い』が何だったのか聞くか……あと、柚佳が持っていた『写真』についても気になるな。どれを尋ねよう?



「篤とお前の関係について、はっきりと教えてほしい」


 顔を向けてくる。納得していない目をしている。



「ダメ。教えない」


「何で? 約束と違うじゃん」


「海里の言う事は、もう聞きました」


「は? 何を……」


「よく思い出してよ」


 ……もしかしてさっきの事? 今までの人生で最高の時だったから、何も文句が言えない。


「くうっ」


 悔しさに歯噛みする。柚佳がニヤリと笑っている。無理やり勝利を我が物にした、仕返しをされたようだ。諦めきれずに言い募る。


「じゃあ、篤の事じゃなくて『写真』の事は? 柚佳が持ってたあの『キス偽装写真』! 誰から渡されたんだよ」


「あ、それ?」


 何故か左に顔を逸らす柚佳の姿に、脳裏を過った場面がある。今朝の……。


「まさか……?」


「あの写真、桜場君にもらったの」


「あの野郎!」


 怒りに歯軋りを強める。慌てたように付け足してくる。


「桜場君、心配して教えてくれたの。……でも本当は、私の心を折りたかったんだと思う」


 言葉の後半、彼女は暗い顔になり俯いた。


「許せねぇ!」


「あっ、でも……! 桜場君は本当は、いい人なんだよ!」


 再び顔を上げ、必死な様子で。篤を弁護する柚佳に、違和感を覚える。


「柚佳……。何でそんなに篤の事、庇うんだよ」


「えっと、それは……」


 口籠もった彼女へ問う。


「また言えないの?」


 さっきまで最高に幸せだったのに、急に奈落に叩き落とされたような感覚を味わう。篤と柚佳の秘密が、こんなに胸に応えるなんて。


「桜場君と私は……似てるところがあって」


「何それ」


 冷ややかに呟く。語尾は低く消えた。


 イライラする。柚佳の口から、他の男の話なんて聞きたくない。


 目付きも悪い自覚があった。彼女の顔が見る見る悲しそうに歪む。そんな顔を、させたかった訳じゃないのに。不甲斐ない自分にも腹が立つ。どす黒い感情を、どうする事もできない。


「帰るね」


 言い残して、彼女は部屋を出て行った。


追記2022.11.30

「さっき」を削除しました。


追記2022.12.5

「柚佳は」を「彼女は」に修正しました。


追記2024.5.19

「急に勝負の話になって驚き顔の柚佳。頬を膨らませた彼女の頭を撫で、抱きしめる」を「柚佳が驚いた顔をした後、頬を膨らませている。頭を撫で、抱きしめた」、「。オレの脳裏に浮かぶ今朝の一場面」を「の姿に脳裏を過った場面がある。今朝の……」、「口籠もる彼女」を「口籠もった彼女へ問う」、「柚佳」を「彼女」に修正、「を味わう」を追加しました。


追記2025.11.4

改行を調整しました。


追記2025.11.5

「右手を握った」を「手を握る」、「認識し一旦落ち着いたら別の焦りが訪れた」を「認識し。一旦、落ち着いたら。別の焦りが訪れる」、「柚佳に」を「柚佳へ、」、「抱きしめた」を「抱きしめる」、「柚佳が慌てたように付け足す」を「慌てたように付け足してくる」、「再び顔を上げて必死な様子で篤を弁護する柚佳に違和感を覚える」を「再び顔を上げ、必死な様子で。篤を弁護する柚佳に、違和感を覚える」、「歪んだ」を「歪む」に修正、「、」(十六カ所)「……」を追加、「オレが」「それだけ」を削除しました。

「放した」を「放す」、「笑った」を「笑う」、「柚佳が顔を上げてオレを見た」を「顔を向けてくる」に修正、「、」(三カ所)を追加しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ