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【完結】キスの練習相手は幼馴染で好きな人【連載版】  作者: 猫都299


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20/67

20 誤解



「柚佳っ!」



 階段を下りた。柚佳の姿は見当たらない。廊下では登校してきた他クラスの生徒が訝しむようにこちらを見ている。……もう教室に戻ったのかもしれない。


 急いで追い掛けようと一歩踏み出した時。


「海里? どうしたの? 今、私の事呼んだ?」


 後方から声を掛けられ、驚いて振り向いた。

 女子トイレから出て来た柚佳がハンカチで手を拭きながらきょとんとした表情をしている。さっき泣いていたからか、まだ少し目が赤い。


「あ、あれ?」


 教室のある方の廊下と、トイレの前に立つ柚佳を交互に見る。


「柚佳、もしかして今までトイレにいた?」


「うん。さっきそう言ったよね? お手洗いに寄ってから戻るって。何かあったの?」


「い、いや……。何でもない」


 じゃあ、さっきの足音は柚佳じゃなかったのか?


 柚佳に誤解されなくてホッと胸を撫で下ろす反面、足音が誰のものであったのか気になる。きっとオレと花山さんの会話が聞こえていた筈だから。





 昼休み。いつも昼飯は和馬と食べている。


 柚佳と一緒に食べたい気持ちはあった。しかし彼女は彼女で数人の女友達と食べているから、そこにオレが交ざるのも変な気がするし勇気もないので何も言えない。家で会う事ができる関係だし我儘は言わない。


 そんな日常を過ごしていたんだが……おかしい。今日はいつもと様子が違っていた。何が違うかって言うと……。


 コッペパンに焼きそばの挟まった惣菜パンを食べつつ……同じく惣菜パンにぱくついている和馬を、注意深く窺う。


 明らかに機嫌が悪い。いつもなら取り留めもない話を切れ間なく喋り通す奴が、今日は昼休み中……一言も発していない。


「明日、槍でも降るかな?」


 そう呟いてみても、チラッと睨まれただけだ。和馬は黙々と……惣菜パンをモグモグしている。


 『もしかして今朝、柚佳を追いかける為に邪険に扱ったからか?』と危惧した。けれど、それだけでこんなに不機嫌になるような奴でもないよな?


「おい和馬。何怒ってんだよ?」


 分からないので直接聞いてみる事にした。


 いくらオレが友達作りを諦め、あまり和馬を大切にしていないからと言っても。和馬はオレにとって掛け替えのない友人である事に変わりはない。これでも色々……感謝はしているのだ。絶対に言ってやらないけどな。


 頬を膨らませ眉を寄せている親友に、恨みの籠もったような目を向けられた。頬を膨らませているのはむくれているのではなく単にパンを頬張り過ぎているだけで、オレの脳裏ではリスのそれと重なって見える。


 和馬が三個目の……コロッケの挟まった惣菜パンを食べようとしている。だが。惣菜パンは口へ運ばれず、机の上へ置かれた。


「お前にはがっかりだよ」


 低い呟きが耳を掠める。眉をひそめた。


「は? 何の事だ?」


「とぼけんなよ!」


 聞き返したオレに、椅子を立ちキレ気味に声を荒げてくる。


「俺には話せないって事かよ。あーはいはい。どうせお前は俺の事、友達だとも思ってないんだろうよ」


「何の事だよ!」


 オレも立ち上がり声を荒げる。机を挟んで睨み合った。


「朝……お前と花山さんが話してるの聞いた。よかったな。二人、両想いみたいだし。あ、だからって学校でイチャイチャ抱き合うのはよくないと思うぞ?」


 そう言って和馬は、オレから目を逸らした。


「え……」


『ええーー!』


 和馬の言葉の衝撃が脳に到達する直前、教室にざわめきが起こった。


「えー!」


「嘘でしょ?」


「オレの天使がっ!」


「美南ちゃん本当なのっ?」


 嘆く者や真相を花山さんに問おうとする者、ただただ驚く者……それらの声が入り乱れる。


 心臓が速い。柚佳の方を向けなかった。どんな顔をしているのか知るのが怖い。彼女に誤解されたくない。


「違う! オレは……花山さんの告白を断ったんだ」


 周囲の盛り上がりが凄くて、オレの声が柚佳に届いたかは分からない。


「じゃあ何で抱き合ってたんだよ?」


 和馬の冷ややかな視線が胸に刺さる。


「それは……」


 言いかけた口を閉じた。


 「花山さんから抱き付いてきただけで、オレは抱きしめていない」と自分を弁護したかったけど……苦し紛れの言い訳のように聞こえるだろうし、何より花山さんに恥をかかせてしまう気がする。


 黙っているオレを嘲笑うように言い捨ててくる。


「ほらな。何で隠すのか知らないけど。堂々と付き合えばいいじゃん! お似合いだし?」


 荒っぽい足取りで教室を出て行く和馬を複雑な感情で眺めていた時……視界の端に映った。友達と机を囲んで座っている、柚佳の姿が。


 彼女は暗い表情で俯いていた。


遅くなりました!


追記2022.11.4

「方が」を「方を」に修正、「どんな顔をしているのか知るのが怖い。」を追加、「彼女に」を「柚佳に」に修正しました。

「誤解してほしくない」を「誤解されたくない」に修正しました。


追記2024.5.12

「キレたように声を荒げて椅子を立った和馬」を「椅子を立ちキレたように声を荒げてくる」に、「声を荒げて立ち上がる」を「立ち上がり声を荒げる」に、「睨み合う」を「睨み合った」に修正しました。

「……それらの声が入り乱れる」を追加しました。


追記2024.5.31

「。」を「が」に修正しました。


追記2025.9.3

「けど」を「。」、「返った」を「向いた」、「目が少し」を「少し目が」、「、」を「……」(二カ所)、「けど」を「が」、「視界の端に友達と机を囲んで座っている柚佳の姿が映った」を「視界の端に映った。友達と机を囲んで座っている柚佳の姿が」、「言い捨てた和馬は荒っぽい足取りで教室を出て行った。それを複雑な感情で眺めていた時、」を「荒っぽい足取りで教室を出て行く和馬を複雑な感情で眺めていた時……」、「言う」を「言い捨てた」に修正、「、」(七カ所)、「言うと」「……」(二カ所)「『」「』」を追加、「けど」「 」を削除、改行を調整しました。

改行を調整しました。

「ちゃんと」を削除しました。

「、和馬が言い捨てた」を「言い捨ててくる」に修正しました。


追記2025.9.4

「かけ」を「掛け」(二カ所)、「食べながら、」を「食べつつ……」、「横目に窺った」を「注意深く窺う」、「が」を「けどな」、「三個目のコロッケの挟まった惣菜パンを食べていた和馬はそれを置き「お前にはがっかりだよ」と言ってきた」を「和馬が三個目の……コロッケの挟まった惣菜パンを口に運ぶ手前で下ろした。「お前にはがっかりだよ」と言ってくる」、「和馬は頬を膨らませた顔で眉を寄せ、恨みの籠もったような目を向けてきた」を「頬を膨らませ眉を寄せている親友に、恨みの籠もったような目を向けられた」、「見えた」を「見える」に修正、「、」(三カ所)「……」を追加、「オレは」を削除しました。

「言ってくる」を「言われた」、「キレたように」を「キレ気味に」に修正、改行とスペースを調整しました。

「って」を「と」に修正しました。

「口に運ぶ手前で下ろした。」を「食べようとしている。だが。惣菜パンは口へ運ばれず、机の上へ置かれた。低く静かな声が届く。」に修正、「と言われた。」を削除、改行とスペースを調整しました。

「、」を追加、「オレの」を削除、改行を調整しました。

「低く静かな声が届く」を削除、「低い呟きを耳が拾う」を追加、改行を調整しました。

「低い呟きを耳が拾う」を「低い呟きが耳を掠める。眉をひそめた」に修正しました。

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