表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/67

18 隠し事


 何だろう。柚佳との会話にすごく違和感を覚える。噛み合っていない気がする。


 柚佳は、オレの告白を嘘だと思っている? 柚佳がオレの事を好きだから責任を感じて嘘の告白をした……そう言ってるよな? どういう事なんだ?


 そこまで考えて、はた……と思い至る。柚佳はオレの事が好き……?


 胸の内に仄かに希望が宿る。


 ……いや待て。早まるな、オレ。その言葉すら真実じゃないとしたら、信じた後に残るダメージは計り知れない。


 もう二度と立ち上がれなくなる悲しい未来を容易に想像できる。惑わされそうだった心を強く律した。


 これ以上深く踏み込むのは止そう。……心ではそう思っているのに、すぐ傍に彼女がいると意識しただけで何かの力が作用する如く離れがたい。本当は……いつも一番近くにいたいのだ。



「オレが言った事は嘘じゃないから」


 長めの前髪の間から、強く見つめた。微笑んでいた相手の表情に戸惑いのような色が差す。


「証明する。オレが柚佳を好きな事。告白したのは責任を感じたからじゃない。そんな義務のようなものじゃなくて、その……」


 こんな事を言わせるなんて。オレの幼馴染は無自覚にとんでもない奴だ。耳まで赤くなっていそうな己の顔を腕で隠す。視線を彷徨わせながら、しどろもどろに口走る。


「お前が可愛過ぎるから……。付き合えたら、オレに繋ぎ止めて一生放さないつもりだったんだ」


 彼女は少し口を開けて気の抜けたような、ポカーンとした顔をしている。


 だめだ。結構恥ずかしい思いをして打ち明けたのに、相手には伝わってなさそうな温度差だ。



「嘘だよ」


 柚佳が真顔で言う。踊り場の右奥へと後退りして、オレと距離を置こうとしているのが分かった。だから静かに冴える心情で薄く笑う。


「嘘じゃない」


 言い分を譲る気はなかったので、彼女から目を逸らさない。柚佳が一歩退いた分、オレは一歩距離を縮める。


 とうとう彼女は背後の壁に行き当たって、後ろに進むのを止めた。


「だって海里は――」


 柚佳は何か言いかけたけど、途中から言葉を呑むように口を閉ざした。


「何? ちゃんと言ってよ」


 続きを促す。彼女は俯いた。気落ちしたような暗い声で言われた。


「……海里はキスの上手い子が好きなんでしょ? 私よりも、その……。――可愛い子なんてたくさんいるし」


「本気で言ってるの?」


 こんなに伝えているのに、まだ足りないみたいだ。


 思っていた以上に彼女は……。後ろ向きな思考になって恨み言を言うくらいには、オレの発した言葉に影響を受けているらしい。


 頬に手を掛け上を向かせる。顔を近付けると目を閉じてくれた。


 優しく何度も、唇を合わせる。



 少しの間だけ放して、本当の事を教える。


「ごめん。嘘ついてた」


 柚佳が瞼を開いた。不安そうに見つめてくる。


「キスしたのは柚佳が初めてだったんだ。他の誰ともした事ないし、するつもりもないから」


「嘘よ。信じない」


 眼前の双眸から、大粒の涙が零れた。


「だって、私知ってるもの! ……――何でもない」


 まただ。何か言いかけては途中で止める。



「何を隠してるの?」


 問うと視線を逸らされた。



「ふーん?」


 わざとらしく呟いて、彼女の頭にキスを落とした。次に目元、次に頬。


「どうしたら信じてくれる? オレに心を開いてくれる? オレは柚佳の秘密を誰にも言わないし、どんな柚佳も受け入れるよ」


 さっき篤と柚佳が話していた彼らの『本当の関係』。それがずっと気がかりだった。


 何であるにせよ。オレはもう、柚佳の手を放さないと決めた。


いつもお読み頂きありがとうございます!

本日用事がありまして、もしかしたら明日の更新をお休みするかもしれません。申し訳ありません。書けそうだったら書きます。よろしくお願い致します。


追記2025.7.31

「い」「だ」を追加、改行を調整しました。


追記2025.8.28

「が」を「を」、「できて、」を「できる。」、「微笑んでいた柚佳の顔に戸惑いの色が差す」を「微笑んでいた相手の表情に戸惑いのような色が差す」、「ように」を「如く」、「すぎる」を「過ぎる」、「彼女」を「柚佳」、「言った」を「言う」、「笑った」を「笑う」、「と、」を「。」、「向かせた」を「向かせる」、「優しく、何度も唇を合わせた」を「優しく何度も、唇を合わせる」、「柚佳が目を開いて不安そうにオレを見た」を「柚佳が瞼を開いた。不安そうに見つめてくる」、「彼女の目から」を「眼前の双眸から」、「何であるにせよ、オレはもう」を「何であるにせよ。オレはもう、」に修正、「……」「、」(三箇所)「だけ」を追加、「彼女を」「オレが」「その柔らかな」を削除しました。

改行、スペースを追加しました。

改行を追加しました。

「かみ」を「噛み」に修正しました。

「彼女は俯いて気落ちしたような暗い声を出した」を「彼女は俯いた。気落ちしたような暗い声で言われた」に修正しました。

「、」を追加しました。

改行を追加しました。

「、」(二箇所)を削除しました。

「オレ」「オレ、」を削除しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 騙されて篤とキスの練習してたら嫌だな
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ