ナイフの天才2
「はぁ、はぁ、はぁ、これで、どうだ?なにか分かったか?」
乱れた呼吸のまま、後ろを振り向くと、そこに師匠はいなかった
どこだと思い、周囲を見渡すと、師匠はあっさりと見つかった
「アレン、お前」
師匠は俺の正面で、途中から先が無くなった剣を持って立っていた
「はぁ、はぁ、いつの間に移動したんだよ。いや、それよりも、どうだった?さっきよりもマシだと俺は思うんだが」
「……」
「?おい、どうだったんだよ」
そう問いかけるが、師匠は答えず折れた剣を見つめていた
しばらくして
「アレン、この剣が何でできてるか知ってるか?」
おもむろに師匠が口を開いた
「はぁ?それが俺に何の関係があるんだよ…」
そう言いながらも俺はその剣を注視していた
一見鉄のように見えるけど、なんか、うっすらと虹色に光ってるようにも見えるんだよな
「ミスリル」
「!意外だ。ミスリルを知ってるのか?」
「冒険者が話していたのを聞いたことがある。確か魔法に対して強いのに魔力の浸透性がいいとか」
「完全ではないがだいたい合ってるな。だが、これはただのミスリルじゃない。ミスリル単体は鉄より少し硬い程度の丈夫さしかない。だからそこに鋼鉄を混ぜ込み耐久性を高めた特別製だ」
「つまり本来よりも硬いんだな。じゃあなんでその剣は折れてんだよ」
「…俺の足元にあるものが見えるか」
「?」
不思議に思いながらも下を見てみると、そこには
折れた剣の切っ先が落ちていた
「アレン、これはお前が折ったんだよ。俺はお前がゴブリンの首目掛けてナイフを振るう動作が見えたからその首の位置にこの剣を置いた。お前の動作がかなり良かったからどれくらいの威力があるのか試したくなった。結果、これだ」
「俺がこれを折っただと…?」
そう言いながら俺は足元の剣の切っ先を拾いあげ、曲げようとしてみるがビクとも動かない
「さすがに嘘だろ」
「いや、ほんとだから。お前がすでに魔力を扱えるのは知らなかったが、それなら昨日のゴブリンを倒してきたのにも納得がいくな」
「ん?ちょっと待ってくれ」
「どうした?」
「俺が魔力を扱えるって言ったのか?」
「そうだぞ。想像上とはいえ、お前はゴブリンの首にナイフが触れる瞬間、体内にあった魔力を一気に放出してナイフに流し込んだ。結果ナイフは急激に硬度と鋭さが上昇し、この剣を折るに至ったというわけだ」
「いや、俺は魔力なんて使ってないぞ。そもそも俺は魔力を感知できない。それなのにどうやって魔力を使うんだよ」
「?お前魔力の感知ができないのか」
「そうだぞ」
「なるほどな。つまりお前は魔力が感知できない状態であれほど完璧な魔力操作をしたというわけか…アレン、お前”祝福”を受けたことはあるか?」
「そんなもん受けたことねぇ。祝福されてたらつい最近まであんな生活してねえよ」
「違う、そうじゃない。”祝福”っていうのは天から白い光が降りかかり身体の中に浸透していくみたいな、そんなやつだ」
「なんじゃそりゃ。そんなのあるわけないだろ」
「そうか、つまりこれはアレン、お前自身がもって生まれた才能、”天賦”だ。シンプルだが、名付けるなら”ナイフの天才”といったところか」
さっきからなんなんだ。”祝福”に”天賦”?初めて聞くものばっかりだ
「アレン、お前、暗殺者に興味はあるか?」
「…はぁ!?」