クレイジーな弟子 2
「んじゃ、また明日な」
そういうとアレンは俺が用意した部屋の中に消えていった
分かっていたことだがアレンはあまりおしゃべりな性格じゃないみたいだな。まぁ、俺もそんなに人と話すほうじゃないから気が楽でいいが
「さて、どうするか」
俺は机の上に広げた書類にアレンに関する情報を書き込みながら考えていた
実をいうと、俺はアレンのことを二週間ほど前から知っていた
もともと俺はアレンを、というよりはスラム街出身の人を弟子にするつもりはなかった。冒険者の中からスタイルの被っているやつを適当に選出するつもりだった
アカリの言う通り前例がないことだし、何よりも書類の手続きがめんどくさい。まぁ、そんなこと言ったら弟子をとるって時点でかなりめんどくさいけどな
それじゃあなぜ俺がアレンを弟子にしようと思ったのかだが、別に誰かから言われたわけじゃない。むしろこの街に住んでる人間だったら誰しもがが反対するだろう
実際、ギルドでアレンのことを弟子にするって言ったら受付嬢にいやな顔をされたしな
だが、俺はアレンを弟子にすることにした
なぜかって?
そんなの決まってる。ただの勘だ
と、言いたいところだが、実際には少し違う
俺がアレンを見つけたのは今日と全く同じ場所だ
あの時もアレンは店の商品を欲しそうに眺めていた。俺はそれを見た瞬間思った。こいつ、今から盗みを働くなと
だが、俺はそれを止めようとは思わなかった。スラム街の子供がものを盗もうとするなんてことはありふれたことだ。別に珍しいことじゃない。
だが俺は、盗みがばれた子供が店主に暴行を加えられるというこの街にとっての常識が好きじゃなかった
だから俺は見なかったふりをしてその場から背を向けて歩き出した
たとえ俺が何も言わなくとも、あの子供がものを盗んだことはすぐにばれてしまうことまで分かっていたのにな
それからしばらく歩いたところで
「このクソガキがぁ!俺の大切な商品を盗もうとしやがって!」
と、言う大きな怒号が後ろから聞こえてきた
はぁ、やっぱりか
そう思いながら後ろを振りかえった俺は、
「あれ、さっき見たやつじゃない」
目を見開いて驚いた
店主から怒鳴られている子供は、さっき見たやつとは完全に違ったのだ
それじゃさっきのやつはどこにいった?
変な興味をもった俺はまた道を引き返していった。するとすぐに、先ほどの子供を見つけることができた
その目つきは先ほどと変わらない。今にもものを盗みそうな顔をしている。それなのに一向に手を出そうとしない
なんだコイツ、おもしろそう
そう思った俺はその日から今日まで、アレンのことを付け回した
そして今に至る
「ふぅ、こんなもんでいいか」
俺は書き上げた書類を魔法袋の中にしまい込んだ
「さて、明日は何を教えようか」
アレンが予想に反してゴブリンの討伐を成功したが、別にそれは悪いことじゃない。むしろ、あの状態で俺が出した指令を成功させたことは評価するべきことだ
それに体づくりをする必要があることには変わりはないからな
「明日が楽しみだ」
翌日
「ヴィクトルさん!いつも言ってるじゃないですか!報告書を物語みたいに書かないでください!添削するの大変なんですよ!」
「よし、まずは剣の使い方から教えてやろう」
「…」
「?なんだ、剣はいやか?」
「いや、そういうわけじゃないんだが、あれは…いや、師匠が気にしないってんなら別にいいか」