クレイジーな弟子
師匠が俺に教えたかったのはこれだったのか?
俺はゴブリンの死体から右耳を切り取りながら考えていた
俺は師匠の言い方からてっきり”仲間の大切さ”をゴブリンとの戦闘を通して学ばせようとしているんだと思っていた。仲間がいることでどれほど強くなるのか。それを集団で行動するゴブリンとの戦闘を通して学ばせようとしているんだと思い込んでいた
実際にはどうだ?
俺は地面に転がっている三つの死体を眺めた
俺がこいつらと戦って感じたのは、”仲間がいることの脆弱さ”だ。己以外への情の強さから自身に近づいている危機に気づくことができず、冷静さを失い、まったく同じ罠に引っかかって、結果
己を含め全員が死に至った
師匠が俺に教えたかったのは本当にこれだったのか?…だめだ。答えが出ない。帰った後に直接聞いてみるか
俺は作業を終えるとその場を後にした
冒険者ギルドの酒場
「ヴィクトルさん!何を考えているんですか!」
俺が一人でのんびり酒を飲んでいると、甲高い声で話しかけて来る存在がいる
こいつの名前はアカリ、俺が冒険中に助けて以来付きまとわれるようになった、真っ赤な髪を後ろで束ねた女の子だ
「なんだよ、平日から酒を飲むのがそんなにダメか?」
「そうですよ!私が何度言おうと毎日お酒を飲むのをやめないんですから!いつか体を壊しますよ!って、私が言いたいのはそういうことじゃな~い!」
「相変わらず騒がしいやつだな」
まぁ、アカリが言いたいことは大体想像がつく
「アレンを俺の弟子にしたことだろう?」
スラム街出身の冒険者は別にめずらしいことじゃないが、この街では初めての事例だ。そのことを言ってるんだろう
「そんなことはどうでもいいです!」
「え、そう」
「私が言いたいのは、なんで私を弟子にしてくれないのかってことです!弟子を一人作ったんです、もう一人ぐらい増えても問題ないでしょう?」
「え~、それはなんかダルイ」
「なんでですか!」
そう言われてもなぁ、俺とアカリのスタイルが違いすぎるんだよな。弟子にしたところでアカリ教えられることなんてあんまないし
「それで、なんでヴィクトルさんはアレンって子を弟子にしようと思ったんです?なにか理由があるんでしょう?」
「そうだなぁ、強いていうならアレンがクレイジーだからかな」
「?」
「まぁ、あえば分かるよ」
おいおい、まじかよ
「ほらよ」
そう言いながらアレンは四つの耳を俺に放り投げてきた
久しぶりに見るが間違いない、これはゴブリンの耳だ
「これでいいのか?」
アレンが訊いてくるが、俺はそれどころじゃなかった
まさか、たった一日でゴブリンを討伐してくるなんて。しかも四匹も
俺は目の前に置かれたものを見て驚いていた
遠くからこっちの様子を窺っていたアカリも信じられないという様子で驚いているが、それは当然の反応だろう
俺が見誤ったのか?アレンの才能を
これは、俺にとっても信じられないことだった
俺が出した指令は二週間ぐらいかけて達成してもらおうと思っていたものだ。今のままじゃ勝てないだろうから今日は逃げ帰ってくるものだと考えていたのだが
アレンは指令を一日で達成して帰ってきやがった
「どうやったんだ?」
「罠を仕掛けてはめて殺した。案外あっさりだったな」
罠か、確かにそれならアレンぐらい身体能力が低くてもできるかもしれないが、そんなに簡単に成功するか?俺が渡したナイフだってジャックブランドとはいえ、切れ味なんてゴールドの冒険者が持ってる剣と大差ないんだぞ
「あ、これ返し忘れてた。ナイフありがとな」
そう 言いながらアレンがナイフを手渡してくる
…嘘は、ないようだな。
俺はそのナイフを見て確信した。アレンは正真正銘自らの手でゴブリンたちを殺したんだということに。分かりづらいが、拭ききれてない血がナイフに付着していた