戦略
ここに来るのも久しぶりだな
そう思いながら俺は森の中を歩いていた
もちろん何の目的もなく歩いているわけではない
今回の標的であるゴブリンを見つけるためだ
それにしても無理難題を押し付けるよな
ここに来るまで歩いて三十分ほどかかった。帰りは疲労も重なってより時間がかかると見た方がいいだろう
日が暮れるまでにあと三時間あるかどうか。そして、師匠が俺に出した指令はゴブリンを討伐すること。見つけてから観察して、それからどうやって討伐するか考えてたらチャンスは一回しかないだろう
まぁ、失敗したとしても、師匠はどうせ近くにいるだろうし大丈夫だろう
そう考えながら俺は近くの木を切りつけた
すると、ナイフは俺の弱い力でもなんの抵抗なく,豆腐のように木を切り刻んだ
こんなに性能がいいナイフ、そう簡単に手に入れられる代物じゃない。弟子とはいえ、今日あったばかりの俺に渡してそのまま持ち逃げされないようどこかで監視してるだろ
どこにいるかは分かんねぇけど
「見つけた」
しばらく歩いた俺は、視線の先に三体のゴブリンを捉えていた
「なるほど、噂通りだな」
俺は木の陰から慎重にゴブリンたちを観察する
ゴブリンたちの身体はガリガリにやせ細った子供のように貧弱で、身長も低い。普通の冒険者だったらこの時点で戦いを挑んでいるんだろうが
「俺には無理だな」
身体能力は俺と同等か?いや、俺の方が低いと考えたほうがいいだろう。そう考えると俺より身体能力の高い敵が三匹。普通に考えたら勝ち目のない相手だ
じゃあ、どうすればいいのか?
答えは簡単
一匹ずつ始末する。それも一方的に攻撃できる状況を作って
そうと決まれば
俺はその場から急いで動き出した
「「「グギャ!グゲゲ!」」」
ゴブリンたちの楽しそうな笑い声が聞こえてきた
ようやく来たか。待ちくたびれたぞ
俺はゴブリンたちが進むであろうルートを予測して先回りし、待ち構えていた
やっぱり三匹で現れるか。できることなら一匹で来てほしかったが。しかたない、やるか
そう考えながら俺は、手に握っていた石をゴブリンたちの近くの茂みに向かって投げた
ガサガサ
その音に気づいたゴブリンたちは音のしたほうを向く。…どうやら、俺の存在には気づいてないようだな。よし、次だ
今度は石をゴブリンたちよりも高い位置を通るようにして、先ほどよりも奥に目掛けて投げる
ガサガサ
「「「グギャ!グギャ!」」」
すると、ゴブリンたちは音がしたほうに向かって歩き出した
ゴブリンたちの興味は完全に音のした方向だけに向いており、やはり俺の存在には気づいてないようだ
よし!
俺は音を立てないようにゆっくりとゴブリンたちに近づいていく
一歩一歩、ゴブリンたちが自分に気づいてないか細心の注意を払いながら近づいていく
「グギャ!」
走れば気づかれたとしても一発攻撃を入れれるほど近づいたところで、一匹のゴブリンが声を挙げながら転んだ
しかし、転んだゴブリンは立ち上がろうとする素振りを見せない
…やったのか?
俺は一度立ち止まってゴブリンたちの様子を観察する
俺は今ゴブリンが転んだ場所に罠を仕掛けていた
単純に足を引っかけて転ばせる罠と、転んだ時にナイフで削って尖らせた木が突き刺さって負傷するという罠だ
動かない仲間のゴブリンを心配してゴブリンが体を起こそうとするが反応はない
どうするか。俺の予定だと負傷させてすぐに戦闘に参加できないようにさせるだけのつもりだったんだが…いや、これは苦労せず一匹削れたと考えよう
「結局やることは変わらないんだから」
俺は走って残ったゴブリンたちに近づいていく
先ほどとは違ってある程度音は立っているはずだが、ゴブリンたちは俺のほうを向こうとしない
それどころか、まだ仲間のゴブリンを起こそうとしている
なるほど、完全に理解した
俺はナイフを一振りしゴブリンの頭と胴を切り離す
そこでようやくゴブリンは俺の存在に気付く
コイツらは馬鹿なんだ。だから、簡単に殺される。殺されないように仲間を集めても仲間への情が強すぎて結局殺される
俺は最後に残った一匹のゴブリンに対して背を向けて走り始める
それを見てゴブリンはこれを引き起こした犯人が俺だと気づいて追ってくるが、
「グギャアアア!」
ゴブリンは転んで地面に倒れる
「今度は死ななかったか。可哀そうに。今殺してやるよ」
俺はナイフでとどめを差した