生きるということ
「お前、名前はなんて言うんだ?」
「んぁ? モグモグ アレン」
「よし、アレン。お前に師匠として初めての指令を出す。心して聞け」
「ん~ モグモグ なんだよ」
「飯を食い終わったらゴブリン討伐にいけ」
「ゴブリン討伐ね。りょうか…あ?」
そこで俺は箸を止めた
ゴブリン討伐だぁ?ゴブリンってあれか?冒険者たちがよく言っている、魔物の中でも一番を争うくらいに弱いって噂のあの?
「無理だろ」
それを聞いて師匠は驚いたような顔をする
「意外だな。アレンなら余裕だって言うと思ってたぞ」
「いや、あれは毎日ちゃんとメシ喰ってて尚且つ魔物の討伐をしようなんて考えるほど腕に自信がある連中が弱いって言ってるだけで実際にはちゃんと強いんだろ?じゃあ無理じゃん。俺身体弱いし戦い方なんて知らねぇぞ?」
「ふむ、たしかにアレンの言う通りだ。冒険者どもはゴブリンをザコ呼ばわりしているが、その実ゴブリンたちはその弱さを補うために集団で行動したり罠や道具を使うなどそこらへんにいる人間よりはよっぽど頭を使って生きている。あまり報道されていないだけで毎年ゴブリンによって殺されてしまう冒険者も少数いる」
なら尚更俺には無理じゃん
「だからこそ俺はアレン、お前にゴブリン討伐をやってみて欲しい」
「つまり死ねと?」
「そうじゃない。今俺は言っただろ?ゴブリン共は弱さを補うために頭を使って工夫していると」
なるほど
「つまり俺もゴブリンをまねて弱さを補う術を手に入れろってんだな」
「そうだ。まぁ、俺も一番弟子にすぐ死なれちゃ困るからこれをやるよ」
そういうと懐からよく手入れのされたナイフが出てきた
リンゴの時も思ったが、コイツの服のどこからこんなのがでてきてるんだ?
「このナイフはジャックブランドのナイフでな、って言ってもアレンには分からないか。まぁ、とりあえずとにかく頑丈で鋭いナイフだと思ってくれればいい。こいつをゴブリン共に突き立てるもよし、こいつを使ってゴブリンを倒す仕掛けを作ってもいい。自由にやってみろ」
「…分かったよ」
俺はナイフを受け取り飯を食い終わったら、すぐさま水の都から少し離れた南の森へ向かった
「おい、アレン、お前は一つ忘れていることがあるぞ」
忘れていること?…とくに思いつかないな
「なんのことだ?」
「俺の名前を訊いてないだろうが!」
「ああ、そういえば訊いてなかったな。でも、知らなくてもたいした問題なくないか?」
「問題あるわ!いいか、お前はそうは思わないかもしれんが人と人とのつながりはとても大事なものなんだ。とくに、人生を豊かにしたいと思うんだったらな。だからいいか、誰かと知り合ったら必ず名前を訊いて覚えること。これも俺からお前に出す指令の一つな」
「はいはい、できるかぎり覚えるようにするよ。それで?師匠の名前は?」
「俺の名前は ヴァン・ヴィクトル よろしく頼むぜ。アレン」