#8 小さい頃の写真
学校が終わり、部活も終わって家に帰っている途中、部活の練習を見学していた澪が突然変なことを言い出した。
「久しぶりにたっくんのお家、お邪魔してもいい?」
「…………え?」
俺の家に、澪が、来る……?
「あ、ダメならいいの! また今度でも」
「いや、ダメってわけじゃないんだ! ただ、その……」
俺も立派な男子高校生だ。
当然女子に見られてはいけない家宝くらいは、部屋の中にたくさんある。
「ちょっと部屋が散らかってるから、片付けさせて欲しいな……って」
「部屋が少し散らかってるくらいなら、私気にしないよ?」
「ちちちょっとじゃなくて、めっちゃ散らかってるから!!」
「そ、そうなの……?」
こんな健全な澪に‴あんな物‴を見せたら、どんな顔をされるか……
とりあえず家に着いたら、妹の千紗とでも話しててもらおう。
久しぶりだろうし、話したいこともたくさんあるだろうからな。
その間に俺は、例のブツを絶対にバレないであろう場所に隠さなければならない。
「うん。本当にめっちゃ散らかってるから、俺が部屋を片付けしている間は千紗と喋っててくれないか?」
「あ! 千紗ちゃんかー! 小さい頃から可愛かったから、今はもっと可愛くなってるんだろうな〜!」
「ないない。あいつは大きくなっていく度に可愛げがなくなっていくんだ」
それに今の千紗なんて、何を考えているのかすら分からないし。
俺のことを無視すると思えば、毎日欠かさず「おはよう」と「おやすみ」は言ってくる。
謎すぎて、もう意味が分からない。
「コラたっくん? 妹だからって、言っていいことと悪いことがあるよ」
「ご、ごめんなさい……」
それからは、気まずい空気が漂いながらも家に着き、澪を千紗に預けてから、俺は部屋の片付け(例のブツを隠す作業)を始めていた。
「クッソ……! 隠す場所がねぇ!」
集めている本やゲームの間に入れようか悩んだが、バレる可能性があるのは全部除外。
それなら……多少強引かもしれないが、布団の下に入れるしかない。
「み、澪……? 一応片付け終わったぞ」
急いで1階にいる澪と千紗の元に向かうと、2人は10年もの時間など関係なく、楽しげに談笑していた。
「あ! たっくん見てみて! これ小さい頃の写真!」
「うわ……懐かしいな」
澪と千紗が見ていたのは、俺と澪が写っている10年前の写真。
それらの写真には、俺と澪がおままごとをしているところや、公園で遊んでいるところ、キスをしているところも――――
…………キ、キスしてる!?!?
「いや〜、お兄ちゃんって小さい頃はこんな大胆だったんだ〜」
「私、たっくんに無理矢理――」
「タイム! タイム!」
全っ然記憶にないんですけど!?
小さい頃の俺、何やってんの!?
てか、そもそもどうしてこんなところを写真に収めてるんだよ!
絶対「やってみな〜」とか母さんな甘い声をかけて、やらせたんだろ! そうに決まってる!
「ごほん……こ、これはだな、母さんにやれと言われたからやったんだよ」
「あれ? そうだっけ? 確かたっくんが土下座してまでやりたいって言うから、キスした気がするんだけど」
小さい頃の俺ぇぇぇえええ!!!
どうして土下座してまで、そんなこと頼むんだよー!
「うわぁ……きっも。最低、クズ、ゴミ、変態」
ほら、見てくださいよ。千紗のあの顔。
この優しくてイケメンなお兄ちゃんを、まるでゴミのように見ているんです。
酷いですよねぇ……
今日は澪が来てくれているから無視されていないんだろうけど、これからは当分「おはよう」や「おやすみ」などの唯一してくれる挨拶さえ、なくなるんだろうな……はぁ。
それからもどんどんアルバムをめくっていく澪。
そして、突然澪が「赤ちゃんの頃の千紗ちゃんが見たい!」と言い出したため、別のアルバムを取って、再びめくっていく。
すると…………
「千紗ちゃん可愛いー!!」
「ゲッ……」
「お兄ちゃん……」
1枚だけ、とんでもない写真があった。
それは、俺がまだ赤ちゃんである千紗の頬にキスをしている写真。
その時の赤ちゃんである千紗は喜んでいるように見えるが……
「……きっも! マジでやめてくんない!?」
赤く染めた頬を手で抑えながら、俺から距離を置く千紗。
……現実はそう甘くないみたいです。
「別にこれはいいだろ! 口じゃなくてほっぺなんだし」
「よくない! 絶対に嫌!」
そこまで拒絶反応見せられたら、さすがにお兄ちゃん悲しいよ?
俺ってそんなに嫌われてたの……?
よし、もう千紗にこんな拒絶反応を見せられたくないから、このアルバムたちは封印しておこう。
そして絶対に何があっても、封印は解かないようにしよう。
さようなら、俺の小さい頃の写真。