表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/9

#6 部活動見学

 入学してから4日ほどが経った放課後、様々な部活の勧誘や体験入部が始まった。

 1年生の教室があるフロアや校門前では、勧誘をしている先輩たちの声が飛び交っている。


「ねね! 皆でどんな部活があるか、見て回らない?」


「それいいね!」


 皆で一緒に部活を見学しようと提案したのは楓花ふうかだ。

 俺は元々高校では部活に入るつもりはなかったが、みおがあまりにも乗り気なため、とりあえず見に行くことにした。


「俺は生徒会に入りたいからパス」


「うん、知ってる。こんな真面目でおバカさんないつきは放っておいて、3人で行こー」


「お前の方がバカだろうが!」


 そんな樹の叫びを無視して、スタスタと階段に向かって歩いていく楓花。

 対して樹は「なんなんだ、アイツは」と呟いて、楓花とは逆方向に歩いていった。



「いつもあんな感じなのか? 2人って」


 階段を下りながらずっと気になっていたことを聞いてみると、楓花は「うん」とこちらを向かずに頷いた。


「結構前からこんな感じだけど、私はこの関係、あまり嫌じゃないんだよね」


「……え?」


「樹がどう思ってるかは知らないけど、私はバカバカ言い合えて楽しいし、樹の前ではいつでも素でいられるから気が楽だしさ」


 なるほど……

 確かに楓花の言う通り、2人は話している時はお互いに素でいられているだろう。

 それははたから見ても明らかだ。


 少し羨ましいような、羨ましくないような……



「ま、そんなことは置いといて、部活の見学しよー!」


 部活動見学をできる期間は割と長めに取られているため、1日に2つ部活を見学したとしても全部活を見学することができる。


 しかし、早めに決めたいという楓花の要望により、俺たちは今日だけで興味のある部活を全て回ることになった。

 現在ここにいる3人は全員、入るとしても運動部となったため、文化系の部活は見学しないことに決める。



 話し合いの結果、バスケットボール部→バドミントン部→バレーボール部→テニス部→陸上部の順で見学をすることになり、順々に部活を見学していったのだが……


「ダメだー! どの部活も楽しめそうにないー! 絶対練習とかキツそうだし!」


「楓花ちゃん! 諦めるにはまだ早いよ! 陸上部見学してないし」


 この高校で部活を楽しもうと思って、運動部に入部する人はほとんどいないだろう。


 ここは偏差値的に見てもかなり上位の高校だが、スポーツ推薦で合格した人の数が割と多いため、どの運動部も県大会出場以上の実力を持ち合わせている。

 そのため、初心者として入部したとしても、練習が始まってから1ヶ月もせずに、練習に耐え切れず退部する人がほとんどらしい。


「よし! 陸上部見に行こう!」


「うん!」


 テニスコートから少し離れた場所にある陸上競技用トラックに着くと、そこには懐かしい風景が広がっていた。


 短距離専門の人たちがクラウチングスタートをしていて、長距離専門の人たちは永遠に続くインターバル。

 走幅跳や走高跳なんかの練習も奥でやっている。


「懐かしいな……」


 ここで朗報。

 なんと俺、中学の頃は陸上部だったのです。

 いやー、驚きですよねー!

 だって、見た目からして足遅そうですもん!


 そんな自虐ネタを心の中で披露していると、短距離の練習をしていた女子がこちらに駆け寄ってきた。

 それに気づいた澪と楓花は、「え、私たち何かした!?」などと言って、おどおどしている。

 しかし、俺は駆け寄ってくる女子に見覚えがあった。


「お! やっぱりたくじゃん!」


「お久しぶりです。あかね先輩」


 駆け寄ってきた女子の名前は、皆実茜みなみあかね


 走る時に邪魔にならないようにショートヘアにした栗色の髪、そして髪色に合った綺麗な眼。

 さらに運動部では稀な華奢な体型であり、中学の頃は学校中の男子を虜にしていた陸上部の先輩だ。


「たっくん知り合い!?」


「うん、この人は中学の頃お世話になった先輩だ」


「嘘……モデルみたい……」


 俺が茜先輩について説明していると、茜先輩はいたずらっぽい表情でこちらをまじまじと見ていた。

 なぜだろう。すごく嫌な予感がする。


「えっと、どうしたんですか……?」


「いや〜、拓が知らないうちに両手に花になってるとは思わなくってさ」


 1年振りに会ったばかりなのに、急に何を言い出すんだこの先輩は!


「「花だなんて……えへへ」」


 コラそこの2人! 何喜んでるんだ!

 それに楓花は樹がいるだろうが!!


「まぁ、そんなことは置いといて、拓は陸上続けるでしょ?」


「一応、高校ではどの部活にも入る予定はないですけど……」


「はぁぁぁあああ!?」


 俺の返事を聞いた茜先輩は、突拍子もない声をあげて去っていった。

 しばらくして、奥で練習していた先輩たちを数名こちらに連れてきた。


「おい拓也たくや! 陸上をやめるってのは本当か!」


「お前ほどの‴逸材‴がどうして辞めることになった!」


 茜先輩が連れてきたのは、全員中学が同じで、陸上部に所属していた先輩だ。


「えっと……たっくんって中学の時、陸上部だったの?」


「まぁ、一応」


「すご! じゃあ足速いんだ!」


「いや、全然?」


 そう答えると、しばらく沈黙が続いた(……なんで?)。

 俺何か変なこと言った……?


「も〜、拓ったらご謙遜しちゃって〜。あんた関東大会の出場経験あるくせに〜」


「「……え!? 関東大会!?」」


「出場しただけじゃないですか。予選落ちしましたし、大したことないですよ」


「それでも十分すごいよ! それなら辞めるの勿体ない!」


「でも……」


 澪や楓花、それに先輩方もすごいと言ってくれているが、自分の中では納得のいく結果なんて一度も出せていない。


 そのため、引退当時は高校でもちゃんとした指導者のいるところで、陸上を続けようと思っていた。

 実のところ、今も続けたいとは少し思っている。


 でも、澪と折角10年経った今会えたのに、部活のせいで全く一緒に過ごすことができないと思うと、どうしても悩んでしまうのだ。


「拓ほどの逸材を手放すのは勿体ないし、毎日練習に参加しなくてもいいから入ってくれないかな。先生には私たちから言っておくから」


 そう言って手を合わせながら懇願する茜先輩。

 そんなの顧問の先生が許してくれるわけないだろうに。強豪校なんだから、絶対怖い先生だろうし。


 すると、そんな俺の心を読んだかのように茜先輩は喋り続けた。


「あ、心配しなくても大丈夫だよ。うちの顧問、優しいし適当な人だから」


 まじすか……



 そんなこんなで、俺は陸上部に半強制的に入部させられたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ