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#5 放課後

「……じゃあ、私も空いてる」


 ‴じゃあ私も‴って、まさか…………


「あ、ごめん、俺用事思い出したから行けないわ」


 俺の勘違いかもしれない。

 でも勘違いじゃないのなら、この選択は間違っていないだろう。


「えー! もっと仲良くなろうと思ったのにー! みおちゃんは来るよね?」


「えっと……私も……」


「なんでよー! もういいや、いつきで我慢しよ」


「おいコラ」


 やっぱり勘違いではなかった。

 これは推測に過ぎないが、澪は放課後、俺に何か用事があるのだと思う。

 でなければ、遊びの誘いに‴じゃあ‴なんて言葉は使わない。


「本当にごめん。でも、よかったな。これで邪魔者がいなくなって、夫婦で仲良くお出かけできるじゃないか」


「「な……!」」


拓也たくやまで私たちのことをからかうわけ!?」


「何度も言ってるだろ!? 俺たちは夫婦なんかじゃねぇって!!」


 楓花ふうかと樹は声を荒らげながらも、全力で否定し続けた。


 やはりこの2人をからかうのは、すごく楽しい。

 夫婦漫才は見ていて飽きないし、特にからかいに対しての反応が面白すぎるのだ。

 本当はすごく仲がいいんだろうな。



 昼休み後の授業が全て終わり、俺と澪は放課後に残ってトイレ掃除にいそしんでいた。


 本当はこの学校の全てのトイレ掃除を命じられたのだが、クラスの皆の抗議によって、1ヶ所だけやれば帰ってもいいということになった。

 本当にありがとう、クラスの皆。


 と言っても、クラスの皆が抗議をしてくれたのは、大体澪みおのお陰だろう。

 多分、居残り掃除を命じられたのが俺だけだったなら、クラスの皆は気にも留めずに、抗議してくれなかったかもしれない。


 美少女効果、まじ半端じゃねぇっす……


「澪ー? 聞こえるかー?」


 俺は少し大きめな声で、隣の女子トイレを掃除している澪に呼びかけた。

 すると、澪から大きめな声で返事が聞こえてくる。


「聞こえるよー! どうしたのー?」


「勘違いだったら悪いんだがー、これから俺に何か用事があるんじゃないかー?」


「……え!?」


 俺は再び大きめな声で昼休みの時に気づいた違和感について聞いてみると、突拍子もない声をあげた澪が男子トイレに駆け込んできた。


「ちょっ……! ここ男子トイレだぞ!?」


「それよりっ!!!! なんでわかったの!?」


 まるで地球外生命体を見つけてしまった時に見せるような驚きの顔で、俺の言葉を無視して、目を見開いてこちらを凝視してくる澪。


「あのー……それよりここ男子トイレなんですけど……」


「そんなの関係ないよ!!」


「確かに関係ないけど!! とりあえず外出て!」


 驚いた勢いで男子トイレに入ってくる女子、初めて見たな。さすがに予想外すぎる。


 とりあえず澪を連れて急いで廊下に出て、昼休みに気づいた違和感を説明した。

 あくまでこれは俺のただの勘なんだけど。


「そうなんだ。でも、気づいてくれて本当に良かった。今日までなんだよねー、‴あれ‴」


「あれ? ってなんだ?」


「お・た・の・し・み!」


 意味深にクスクスと笑いながら、からかうように言ってくる澪はとても可愛かった。



「……こんなところがあったとは!」


 遅刻しかけた罰として、放課後の居残り掃除を終えた俺たちは澪の言っていた「お・た・の・し・み!」の場所に来ていた。

 その場所とは――――


「1回来てみたかったんだけど、2種類食べたいのがあったから、たっくんと一緒に来ようって決めてたんだよねー!」


「それってまさか……」


「そう! 半分ずつ食べよ!」


(キターーーーっ!!)



 駅前にポツンとあるクレープの移動販売車。

 あまりこういう移動販売車で人が並んでいるのは見たことがないが、ここのクレープの移動販売車はかなり多くの人を集めていて、大行列ができていた。


「すごい人気だな……」


「そうなんだよねー。普段から行列はできてるんだけど、今日はいつも以上に人がいるかも。最終日だからかな」


 そんな大行列の最後尾に並び、自分たちの番が来るまで10年前の思い出話で盛り上がっていると、いつの間にか前にいた人たちは消えていた。

 澪はどうやら無料チケットを2枚持っているらしく、付き合ってくれたお礼として1枚くれるらしい。


「澪は2種類食べたいのがあるって言ってたよな? どれなんだ?」


「ストロベリーショートケーキとチョコバナナブラウニーを食べたいんだー」


 両方ともケーキみたいな名前のクレープだな。

 一体どんなクレープなんだ……?


「買ってきたよー」


「お、ありがとう」


 すごく美味しそう!!!


 ここで重要なお知らせです。

 実は俺、スイーツが大好物なんです!

 もうスイーツには目がなくって……


 しかし、ここで問題が1つ。


「半分ずつって言ってたけど、どうやって食べるんだ?」


 「そんなの決まってるじゃん……」と、頬を赤らめながら上目遣いで見てくる澪。


「食べさせあいっこしよ?」


 くそう! 可愛すぎる!


 それに、食べさせあいっこって幼馴染がすることか!? 絶対恋人同士がすることじゃないか!?

 俺と澪は幼馴染といっても、10年間もの空白がある。

 だから澪も幼馴染がする限度がわからないのかもしれない。絶対そうだ。


「はい、あーーーん?」


「あーーーん」


 その後も‴あーーーん‴という行為が何度も続いたが、最初は周りの目もあって恥ずかしかったものの、途中からは気にならなくなっていた(ごめんなさい。完全に乗り気でした)。


 もう死んでもいいくらいに最高な一時でした。

 ありがとう澪。ありがとう神様。

 もうこの日は一生忘れません。


 俺はこの世で一番の幸せ者です。

 今日あったことは、どうか夢じゃありませんように。

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