#3 友達
「あなた達! 入学早々遅刻ギリギリとはどういうことですか!」
あの後、俺と澪は遅刻寸前に学校に着いた。そして今、職員室で担任だと思われる先生に怒られている。
「……罰として今日の放課後、居残り掃除を命じます!」
「「はぁぁぁぁぁあ!?!?」」
俺たち2人は、入学早々遅刻をしていないにも関わらず、謎に罰として居残り掃除をすることが決定した。
「ごめんね、私のせいで居残り掃除することになっちゃって……」
「別に澪のせいじゃないよ。だって俺たち遅刻してないし」
こればっかりは俺たちは悪くない。
あの先生が厳しすぎるだけだ。
遅刻ギリギリでも遅刻していないんだから、許してくれてもいいではないかと思う。
「そうだけど……」
「気にすんなって。居残り掃除くらい、すぐ終わるだろうし」
「たっくん……ありがとう」
幼馴染だから当然なのだろうが、学校でもたっくんと呼ばれるのは少し恥ずかしいな……
「おう」
掃除なんて10分もあれば終わる、そう思っていたが……
「あ、言い忘れてましたが、居残り掃除、この学校の‴全ての‴トイレをお願いしますね」
「「……全て?」」
職員室から出てきた先生の思いがけない一言により、そんな思いは一蹴された。
斯くして俺たちは、放課後に想像を絶するほどの時間を費やすことになったのだった。
※※※
「……本当にごめんね」
「いいって、気にすんなって言っただろ」
教室に着いてからも澪はずっと謝り続けていた。
ここで疑問に思う人もいるかもしれない。
俺はなぜ教室の中でも澪と一緒にいるのか、と。
30分ほど前の話だ。
俺と澪は教室に入り、ホームルームを終えると担任の先生の発案により、席替えが行われることになった。
入学早々席替えをするのは、やっても意味がないと思うが、担任の先生はどうしてもやりたいらしく、既にくじ引きの用意を済ませていた。
「はい! じゃあ出席番号1番の人からくじを取りに来てくださ〜い!」
さっき怒っていた先生とはまるで別人で、初見だったら元気でいい先生だと思われそうだ。
でも怒ったら怖いからなぁ。
「全員引き終わりましたね。では、黒板を見て、紙に書かれてある番号の場所へ移動して下さい」
ちなみに俺は14番を引いた。窓側から2列目の一番後ろの席だ。
前の方の席だと、授業の時に当てられる可能性が高くなるため、正直後ろの方の席でありがたい。
「……え」
自分の席を動かしていると、急に後ろから声がして、振り向くとそこには澪の姿があった。
(おいおいマジかよ!)
いくら小さい頃に仲が良かった幼馴染でも、可愛い子が近くの席だと落ち着けない。
それに、授業にも集中出来ずに、先生に何度も叱られるかもしれない。
「……たっくん、何番?」
「俺は14番だった。澪は?」
「私、7番……」
7番ってことは、一番窓側で一番後ろの席。つまり、俺の隣の席だ。
しかも澪は窓側の席なため、隣は俺以外いない。
「……私の隣、たっくんが独占だね」
照れているのか、顔を紅潮させながら髪を人差し指で弄んでいる澪は、元々の可愛さに増してすごく可愛かった。
今日からこんなにも可愛い子が隣の席だと思うと、急に学校に行くのが楽しみになってしまう。
しかし、頭の中でこれからのことを想像していると、その邪魔をするかのように、俺の前の席の奴が話しかけてきた。
「なあ、お前ら入学早々居残り掃除なんだって? 一体何やらかしたんだよ」
後ろを向いて、笑いながら喋ってくる名前も知らぬ茶色い髪にパーマをかけていて、チャラそうな男。
急に話しかけてくるとは思わなかったな。
「遅刻してないのに、ギリギリだったからなんでしょ。そんなのも知らないの? バカ樹」
俺に話しかけてきた樹と呼ばれる男の隣、かつ澪の前の席の、亜麻色の髪を後ろで結び、ポニーテールにしている女の子が、この話に割って入ってきた。
「うるせーなー、お前とは話してねーんだよ。静かにしてろ、バカ楓花」
「はぁ!? 私バカじゃないし。樹の方が私よりバカでしょ!?」
「お前、受験の点数俺より低かっただろーが」
「少しだけでしょ! あんなの誤差よ誤差」
こんな感じの見るからに面倒くさそうな奴らとは、この先関わりたくないと思ったが、その願いは叶わなかった。
「あのー、夫婦漫才をしてるところ申し訳ないのだけど……」
澪が首を突っ込んでしまい、関わらざるを得なくなってしまったのだ。
「「夫婦漫才!? 誰がこんな奴と!」」
すげぇ……息ぴったりだ……
この2人絶対仲良いのに、そのこと認められないタイプだな。めっちゃ面倒くさいじゃん。
「でも息ぴったり」
「「うぅ……」」
澪のからかいにより、樹と楓花は2人して険しい顔で澪を見つめていた。
それに対して澪は不気味な笑みを浮かべている。
澪が人をからかっているのは初めて見たが、あの顔を見る限り、かなりドSなのかもしれない。
「まぁ、この話は置いといて、お昼にどこかで親睦会しない? 折角席も近くなったんだしさ」
話を切り替え、親睦会をしたいと言い出した澪。
これ以上からかわれたくない樹と楓花は、その誘いには断れず、昼休みの時に屋上で親睦会を開くことが決定した(尚、俺に選択権は与えられなかった)。
この高校生活、昨日は友達1人も出来ないと思ったが、早くも3人(1人は幼馴染、2人はよく分からない)出来たし、かなり賑やかになりそうだ。