読書会大作戦編-7
夕子からサイン会の許可が得られた。次は、イラストレーターの空美子である。空美子とも今日会う約束をしていた。
夕子の家から出ると、駅前の向かう。空美子とは阿部瑠町駅前のスーパーの中にあるチェーン店のコーヒー屋で会う約束になっていた。
急いでスーパーに入り、コーヒー店に向かう。セルフサービスのカフェなので、まずカウンターで注文する。バレンタインフェアのようでチョコレート味のドリンクやお菓子のフェアをやっているようだ。店員にも勧められて、マシュマロ入りのココアを頼む。
出来上がったココアを受け取り、客席に空美子の姿を探す。平日の午前中のせいか、あまり客はいないのですぐに空美子の姿が見つかった。禁煙席の奥の方に座った空美子に声をかける。
「こんにちは。空美子先生!」
「あ、栗子先生!」
空美子は、笑顔を見せた。空美子はまだ30代中盤ぐらいの女性だった。
小柄で明るい茶髪に眼鏡をかけているのが印象的だ。眼鏡のフチは赤く、個性的だが彼女の雰囲気によく似合っている。あまり老け込んだ印象はなく、サブカル女子のような雰囲気だ。
さっそく2人は座り、話し始めた。
「空美子先生は、最近どう? ストレス溜まっていない?」
さっきの夕子の話を聞いて心配になった。まあ、イラストレーターと少女小説家とは全く別の職業ではあるが。確か空美子はイラストレーターの他に漫画の仕事も始めていると聞いた。毎月いきつも彼女のイラストが表紙の本が発売されているし、仕事の方は問題ないように見えた。
「ええ。ボチボチですよ」
空美子の表情もちょっと沈んでいた。
「どうしたの?何かあった?疫病の自粛疲れとか?」
「いえ、そんなんじゃないんですけど、うちの彼氏がね…」
空美子は、コーヒーを片手にポツポツと愚痴をこぼし始めた。
なんでも同棲している彼氏は、疫病に対して大変怖がってしまい、家中神経質に掃除しているらしい。空美子とのスキンシップを拒み、ここ2年全く触れ合っていないのだという。
「そこまでする? もしかして浮気とか…」
ついそんな疑いもあるように感じてしまった。
「いえ、それだったら逆に良いですよ。うちの彼氏、あまりにも疫病が怖くてなってしまったようで、エンジェル万歳教っていう変なカルトにハマってしまったんですよ…」
栗子は絶句する。想像以上にディープな話題にせっかく注文したココアも飲む気になれなかった。
「だから毎日彼氏と顔を合わせるのがしんどくって。ストレスですよ。さっさと疫病騒ぎも終わって欲しいものですね。まあ、巣篭もり需要で私の漫画もそこそこ売れているので、全部が全部が悪いわけではないんですけどね」
「そうだったの。大変だったのね」
想像以上にディープな事情ではあったが、やはり逆にここでイベントの交渉がしやすい。栗子はちょっと緩くなったココアを一口含み、あの企画書のチラシも見せた。
「なんですか?え?読書会?なんか楽しそう」
空美子もこの話題に食いついた。さっきより表情に活力が戻っている。栗子もココアで糖分をとり、少し元気になってきた。
「どう? 一緒にサイン会やらない?」
「そうですねぇ。あ、青村先生とも一緒にするんですか?」
「ええ」
「三人でやるんだったら、気が楽ですね。一人でイベントやって誰も来なかったらどうしようって思うもの」
空美子はちょっと苦笑していた。見かけによらず慎重な性格のようだ。そういえば空美子の書く細部までかなり繊細だ。慎重な性格が反映されているのかもしれない。ちなみに栗子も趣味でイラストを書いたりするが、線が太く、細部は適当だ。やっぱり性格は絵に反映されやすいのかもしれない。
「どう? やってみない? 夕子先生も乗り気よ。まあ、編集部の許可待ちではあるんだけど」
「そうですねぇ。みんなでするならイベント出てみたいです」
栗子は心の中でガッツポーズをとった。これで石田書店の協力も得られれ、編集部との協力が得られたら自分の計画は完璧である。
「じゃあ、決まりね! もしサイン会ができなくてもカフェの読書会は絶対するから!」
栗子が元気よく言うと、あまりの元気さに空美子は面食らっていた。
「栗子さんって見た目と違って、面白い人ですね」
驚きで目をパチクリとさせていた。
その後、亜弓から編集部や営業部の許可も取れたと連絡をもらった。あとは石田書店だけだ。