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読書会大作戦編-4

 夜遅くまで栗子は自室でワードをカタカタと打っていた。


 仕事ではない。もちろんコージーミステリの新作のプロットは企画決定の知らせを受けたあと、さっそく作ってしまい担当の常盤に送っていたし、西洋ファンタジー風の少女小説もすでにプロットもできている。まだまだスケジュールに余裕がある。


 今打っているのは、読書会の企画書だ。企画書といっても仕事のように出版社に出すわけではなく、幸子に納得してもらえば良いのだが、職業柄か熱心に作っていた。


『疫病に負けるな☆読書会イベント大作戦!』


 イラストや写真も豊富に差し込み、読書会のイベント内容などを打ち込んでいった。みんなで本をもちより、おすすめ本をプレゼン。その後、イベント参加者同士で本を交換したり、自由にケーキや紅茶を飲みながら読書。読書では飛沫は飛ばないし、疫病の中でも意外といけるかもしれない。


 プレゼンも手書きポップのようなものを描いて持ち寄る形にしても良い。そうすればほとんど会話をせずイベントができる。我ながら良いアイデァじゃないかもしれないと、企画書を作りながら満足する。できれば石田書店と協力してサイン会などもできれば良いのだが、こればっかりは相手がある事などで色々と交渉が必要かもしれない。


 そうなれば自分一人で集客できるか不安にもなる。栗子は一応、ベテラン少女小説家ではあるが濃いファン向けの作家である。もう少し今風の人気作家でも居れば良いのだが。同じ昼出版の少女小説レーベルの青村夕子(あおむらゆうこ)などが協力してくれるとありがたいと考えを巡らす。


 青村夕子は、栗子と違って人気作家である。最近、『幸せな私の花嫁』がヒットし、アニメ化の噂もありようだが、三年ぐらい前出版パーティー会った時は火因町の隣町に住んでいる作家で意気投合。たまにメールのやりとりもしていた。


 ダメ元ではあるし、編集部の許可も最終的に取らなければならないが、夕子にも協力して貰えるとありがたいとメールを送った。


 もちろんしすぐ返事がくるわけでは無いが、栗子はワクワクしながら企画書を印刷した。



 よく朝、メゾン・ヤモメの食堂の食卓にはベーカリー・マツダのクロワッサンがカゴに入って置かれていた。あとは桃果が用意したコンソメと野菜のスープと、キャベツのサラダ、ジャムが並べられている。


 栗子は夜遅くまで起きて企画書をせっせと作っていたので、桃果、幸子、亜弓はもう食卓についていたが、一番送れて食卓につく。


 飼い猫にルカは、桃果が用意した手作りに餌をガツガツと食べていた。


「栗子さん、おはよう。またお仕事で徹夜ですか。も目の下は真っ黒ですよ」


 幸子が一番最初に栗子の様子に気づき、心配そうな表情を浮かべていた。いつものように朝食を食べない主義の幸子は、濃い紅茶だけを飲んでいた。


「実は、こんなものを作っていたのよ!」


 栗子は印刷した読書会イベントの企画書をみんなに配る。


 夜中まで栗子の部屋に明かりがついていると思ったら、こんなものを作っていたのか。一同はちょっと呆れてはいるが、幸子は笑顔だ。しかも感動しているのか、目の隅に涙まで溜まっている。


「素敵よ、このイベント。栗子さん、ありがとう。これで少しはお客さんが戻ってくるかも」

「まあ、この人気作家の青村夕子さん。この人も協力してくれると良いわよね」


 桃果はクロワッサンにママレードジャムを塗りながら言った。


「亜弓さん、難しいかしらね?」


 栗子はすっかり朝食を食べ終えている亜弓に尋ねた。


「そうですねぇ。悪くないですね。2月は14日に栗子先生の大正時代のシンデレラストーリーも出るし、イラストレーターの榊原空美子(さかきばらくみこ)先生ともサイン会できたら最高…」


 亜弓は実現できるか不明であるが、栗子の熱にこもった企画書を眺めていたら、ついつい自分の願望をつぶやいてしまった。しかしこの言葉でさらに栗子のヤル気に火をつけしまったらしい。


「そうよ。榊原先生も来てくれたらいいのに。榊原先生も隣町の阿部瑠町(あべるちょう)に住んでいるのよね」

「そうだったんですか?」初耳ですよ」


 亜弓はイラストレーターの榊原と電話テレビ通話で打ち合わせしていたが、初耳だった。


「そうよ。三年前にルンルン文庫の作家達とパーティーやった事があるんだけど、榊原先生も来て意外と近くに住んででますねって地元トークで盛り上がったわ」


 イラストレーターの榊原とは滅多に連絡は取り合っていないが、それでも連絡先は聞いていた。繊細なタッチの美しいイラストを描く作家で栗子も何度か少女小説のイラストを描いてもらっていた。


「なんか夕子先生も榊原先生も近くに住んでいるのなら、ちょと協力してもらえるかも…」


 こんなイベントは難しいと思っていた亜弓だが、そんな事実を聞くと現実化出来るかもしれないと思い始めた。


「まあ、サイン会はカフェでやるのは難しいかな」

「そうなの?」


 亜弓がそう言うと、乗り気になっていた他の面々は、ガッカリした様子を見せた。


「でもカフェと何かコラボ出来るかも。石田書店で本を買ったら、うちのドリンク一杯無料とか、そういうのは難しいですかね?」


 珍しく幸子は積極的に発言する。普段おっとりとした幸子では珍しい事だ。


「それだったら石田書店とやっぱり交渉しなくちゃ」


 桃果も冷静にいう。


 イベントとと一言と言ってもやる事がたくさんあるようだった。


 とりあえずみんなで役割分担を決めた。亜弓は編集部営業部と交渉や許可を得る、栗子と幸子は石田書店や夕子、榊原と交渉。桃果はイベントで具体的に出来ることはないが、みんなが忙しい時にメゾン・ヤモメの掃除や料理の当番をするといい事で決まった。栗子と違ってもともと家で料理やルカの世話をするのが好きな桃果にとってはこの役割の方がむしろ良かったと言える。


 こうして役割分担も決まり、「読書会イベント大作戦!」は始動し始めた。

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