犯人逮捕大作戦編-5
気づいたら、どこかの薄暗い小屋の中だった。棚をみると農薬がずらりと並んでいる。どうやらあの畑の近くのようである。
頭は痛く、血もこめかみあたりから流れているようだが、とりあえず生きているらしい。
全身とても痛い。
縄で柱に縛り付けられて、全く身動きが取れない。
隣を見ると陽介も同じように縛り付けられている。全身ぼろぼろで、頭から血も流れていた。
「ちょっと、陽介さん!なんなの、ここ」
「さあ、どうやら我々は頭おかしいカルト信者に捕まったようだ。ほれ、あれ見てみ?」
陽介顎で棚の方を示す。そこには草生教の教祖の写真が祭壇のように飾ってあるではないか。まんまと敵に捕まり、絶望的な思いだ。
「目は覚めた?」
そこに円香と貝塚が現れた。
「やっぱりあんたが犯人だったのね!」
亜弓は狼のように噛み付いた。ここに居ると言う事は二人とも犯人である。共謀していたのだろう。
「やっぱりカルト信者は頭おかしいな。こんな事して善行を積んでとか思ってるのか?下らないな!」
陽介が鼻で笑うと、円香も貝塚も怒り始めた。
「うるさい!」
「黙れ!」
こうしてみると、円香も貝塚もかなり似ていた。
「ねぇ、毒入りチョコは夕子先生を狙ったのね? でも栗子先生や空美子さんがチョコを食べたのは想定外だった?」
もう亜弓は諦めていた。あとは、どうにでもなれ!と自分達の推理があっているのか確かめたい気分である。
「そうよ、あのバアア達もチョコを食うなんて!」
円香が悲鳴のような声をあげる。
「ウケるな。シープルおばさん食い意地張ってるもんな。計画狂ってしまったんだな」
陽介はこんな状況でも余裕なのか、ケラケラ笑っていた。
「それで、あれか? 空美子ってイラストレーターが何勘づいて警察に言うとでも言ったか? 口封じに殺したのか?」
陽介の推理は、自分たちも考えていた事だった。
「そうよ。あのイラストレーターは、こっちの勧誘にもびくりともしない。挙句、警察に毒入りチョコの事まで言うなどと言い始めてね」
貝塚は、クスクス笑っている。普段、頼りがいにある上司としての貝塚の姿はどこにもない。
「全く、あんたがドジだから悪いのよ! こっちの計画を電話で話しているのを空美子に見られるなんて!」
「私のせいですか!?」
「そうよ、このマヌケ!」
貝塚と円香は言い争いを始めた。もともと仲が悪い様子で、仲間割れしているようである。
その隙に縄が解けないかと身を捩ったりしてみたが、身体に食い込みびくりともしない。
陽介はこんな時でも全く冷静だった。言い争う女二人をニヤニヤしながら眺めていた。
「しかし、ブスだなぁ、お前ら」
「何ですって!」
「どういう事!」
ブスという言葉に反応しない女などいないだろう。二人とも陽介に怒りをぶつけ始めた。
「おまえら、市製品の安いシャンプー使ってるだろ。海面活性剤やキャラメル色素とか着色料入りですごい髪と地肌を痛めるんだぜ? ノンシリコンだから良いってわけでもねーよ」
「え、そうなの?」
円香は、陽介の話に食いついた。まあ、美容に関心の無い女は少ないと思うが。犯人達がスキを見せ始め、亜弓も冷静になってきた。もしかしたら陽介はわざとこうやっているのかもしれない。
「俺様はずっと湯シャンだぜ。禿げかけてたけど、湯シャンでだいぶ回復したんだよ」
「へぇ、本当?」
あまり賢くなさそうな円香は完全に陽介の話に食いついていた。
「あと口紅もタール色素が入ってるからな。今はみんなマスクしているし、口紅は要らないんじゃか?まあ、湯シャンが本当にオススメだ。艶々になるぞ。重曹シャンプーもオススメだ」
「そうなの? やってみようかな〜」
「ちょっと円香、何言ってる? フケだらけになるわよ。この男の背中や肩はフケがびっしり積もってたわ」
素直に陽介の言う事を聞いている円香にツッコミを入れたくなる。
「いや、このフケは陰謀論執筆のために5日日間ぐらい風呂に入る時間がなかったせいなのだ」
「うぇ、汚いわね!」
亜弓は思わず顔を顰めた。
そんなくだらない話で盛り上がってしまうと、ついに貝塚がブチギレたようだ。
「うるさい! お前ら、犯人に捕まってる自覚あるの!」
そう叫んで、ポケットの中からライターを取り出した。
フット赤い火が灯る。
「あんた達は火だるまになって死んでもらうわ!」
一瞬気が抜けたが、絶対絶命のようだった。相変わらず、身体に巻きついている縄は解けないか。




