犯人逮捕大作戦編-1
翌日、亜弓はリモートワークではなく出勤日だった。
文花に連絡を取ると、さっそく事件に協力してくれるというので貝塚ともあっても良いという事になった。文花が言うにはアポ無しで突然編集部に乗り込む方がダメージを与えられるというので、今日の午後、栗子と一緒に行く事になった。文花の性格の悪さは今に始まった事ではないのでこんな事では驚かないが、相変わらずである。
文花の作戦通り、貝塚にはこの事は言わないようにしよう。さっそく栗子も乗り気になり、ルンルン鼻歌を歌いながら今朝ICレコーダーを準備していた。あのICレコーダーで香坂今日子を捕まえられた成功体験があるせいか、栗子はそれを印籠か何かだと思い込んでいるようにも見えた。
昨日は、事件の作戦について栗子と話し込んでしまったのでちょっと寝坊した。メイクもかなりあっさり目に施し、身支度を整え、急いで駅に向かう。朝食は夕子や桃果達がトーストを焼いていていい匂いに惹かれたが、今日は時間が無いので朝食は抜きである。
駅の方に小走りで行くと、商店街の方がザワザワと騒がしかった。朝はベーカリー・マツダ以外の店は閉まっているので珍しい。人だかりもできている。
腕時計を見るとまだ電車が来るまで時間があったので、人だかりを見渡す。
なんと警察がきていて、赤澤隼人を逮捕していた。どうやらベーカリー・マツダの外観を落書きしようとしていたところを現行犯逮捕されたようだ。
「あ、陽介さん!」
人だかりに陽介がいたので声をかけた。陽介はいつも以上に偉そうにドヤ顔をしていた。
「あの男は、俺がとっ捕まえたんだよ。まあ、ベーカリー・マツダに和水くんにも協力してもらったがな」
「本当?」
「あの男のSNSを漁って裏アカをしらべたら、なんと犯行予告があって、警察を呼んだってわけさ」
かなり鼻高々である。いつも以上に俺様だとドヤ顔である。
「裏アカによるとどうやら一連の商店街の嫌がらせは全部あの男の仕業のようだ。これで一応商店街は安心だ」
駅前で自分の演説は絶対やめないとも言い、かなり陽介は上機嫌である。そに演説も嫌がらせのきっかけを作っていたわけだが、こうして犯人が捕まったので、演説をやめさせるのも酷だろう。基本的に頭の痛い陰謀論演説ではあるが、陽介の女性ファンがカフェにも来てくれるようになったと幸子が喜んでいた事を思い出す。
「あの赤澤は、空美子先生や毒入りチョコと関係あると思う?」
亜弓は事件についても陽介の意見を聞く。
「さぁ、それはわからん。でも隣の阿部瑠町に草生教の連中が運営している農家があってな。そこで農薬は得られるじゃないかって予想しているんだよ。このあたりで草生教がやっている農家があそのだけなんだ」
「そうなの?」
「それに俺は最近農薬の闇の陰謀論も書いていてな。その農家に突撃取材でもしてみようかと」
チョコに入っていたと思われる農薬については、亜弓は今まで考えなかった。警察が調べているだろうと思い込んでいたが、ここまできて何もわからないのなら陽介の作戦も一理ある。
「ね、その取材に私も同行してもいい?」
「は? でもまあ、俺が一人で行くよりは向こうも警戒を解くかもしれんな。いいだろう。明日が開いてるか?」
明日は仕事であったが、やっぱりこのチャンスは逃せない。有給も溜まっているし、陽介の取材に同行する事に決めた。
「ええ、明日いくわ」
「オッケー、詳しい時間などは後で連絡する」
時計を見るともう電車が来る時間が迫っていた。亜弓は再び走るように駅に向かった。




