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カルト疑惑編-1

 

 その後、栗子は脅威の回復力で三日で退院する事になった。夕子は精神的ショックも大きかったようで、しばらく入院中だった。病室に一人残された夕子は寂しそうに見えたが仕方ない。


 退院する日、桃果が迎えにきて二人で帰った。


「シーちゃん、タクシー使わない?」

「いえ、お金持ったないしマイクロバスで帰りましょう。っていうか、お腹減った!」

「シーちゃんはあんな事あったのに元気ねぇ」


 桃果は呆れていたが、こうして元気なフリでもしていないと押しつぶされる思いがする。あれから事件の進展はなく、空美子が亡くなったショックは消えたわけでは無い。コージーミステリのヒロインを気取りたいものだが、自分が狙われた可能性もなくは無い。そう思うと、この事件はどこから手をつけたら良いか決めかねていた。


「まあ、せっかく退院したんだし、帰りに商店街に行って色々買い物しましょう!」

「元気ねぇ、シーちゃん」


 桃果は呆れていたが、帰りに商店街に行くことになった。


 商店街は人が少ない。いつもと違って閑散としたムードが漂っていた。バレンタインはもう終わったので、赤いリボンやハートの風船などの飾りは撤去されているのは当然だが、栗子はなんとなく違和感を持った。


「桃果、なんか商店街いつもと違って人少ない?」

「それが、あの事件でちょっと悪い評判良や噂が立ってるらしいのよ」


 桃果は顔を曇らせた。その表情を見ると嫌な予感がした。特に事件の舞台になってしまった幸子の店は大丈夫だろうか。


「私、幸子さんの店いくわ」

「え、いいけど」


 栗子は小走りで幸子のカフェの向かった。その後を桃果もついてくる。


 カフェの入り口は半分シャッターが閉まっていた。それにまた壁にチラシがはられ、落書きもされている。チラシや落書きには「毒入りカフェ」「バイキンだらけ」「営業停止しろ」などと酷い言葉が並んでいた。


「酷い…」

「なんなの、これ。シーちゃん」


 想像以上の嫌がらせに二人はこれ以上言葉でない。


「幸子さんは大丈夫かしら?」


 栗子一番それが心配になる。おっとりと優しい幸子がこんな目に遭うなんて理不尽すぎる。栗子は腹に怒りを溜めながら、シャッターを持ち上げ、カフェの中の入る。桃果も後に続いた。


 カフェの中にはまだサイン会の残りなのか、ポスターや花の飾りがしてあったが、テーブルは通常通りに戻っていた。


 そこには、幸子はもちろん、ベーカリー・マツダの和水やケーキ屋スズキの拓也、石田書店の店長もいてくらい顔をしながら愚痴っていた。テーブルの上にはコーヒーやココア、紅茶だけだったが、まるでお酒を飲みながら愚痴っているような暗い雰囲気が漂う。


「ちょっと、みんなどうしたの?」

「どうしたのよ、みんな!」


 この暗い連中に栗子も桃果も面食らう。いつもはどちらかといえば客商売にピッタリな明るい人達なので、そのギャップに驚きしかない。


「あぁ、栗子さん…。元気になったんですね」

「退院おめでとう…」

「おめでとう…」

「良かったです…」


 幸子、和水、拓也、石田店長に退院祝いの言葉を言われたが、彼らの顔は沈んでいてちっとも嬉しくはない。


「どうしたの? みんな暗いわよ!」


 栗子はオバタリアンらしく図々しく席に座る。桃果も栗子の隣に続いて座り、顔を顰める。


「本当どうしたの? 店の様子見たわよ。また嫌がらせされたの?」


 桃果は心配そうにみんなを見回した。


「そうなんです。もうずっとお客さんが来なくて開店休業中です」


 幸子はうっすらと目に涙を浮かべながら呟いた。


 幸子に聞けば事件の後、ずっとこんな様子で今日の嫌がらせは特にひどく心が折れてしまったそうだ。このカフェだけでなく、ベーカリー・マツダやケーキ屋スズキ、石田書店も似たような嫌がらせにあい、ネットにも悪い噂が流れはじめ、ついに営業する気力もなくなり幸子のカフェで愚痴大会を開いているという事だった。店を開けていても客は来ず、どうせ暇なのだという。


 この話を聞いて栗子も涙が出そうだ。


「私がイベントを開こうなんて言ったのは逆効果だったのかしら」


 結果的にイベントを開いた事で、余計に嫌がらせを受ける結果になってしまい、営業もできない状況である。


「うわーん、私も辛いデス!」


 なぜか関係のない輸入食品店のキムまでが乱入してきて泣き始めた。栗子もすっかりこの暗いムードに呑み揉まれてしまった。


 比較的冷静な性格の桃果は、手を叩いて、大きな声で言った。


「ちょっとキムさんは関係ないでしょ。さっさと仕事に戻らないと佳織ちゃんに怒られるわよ!」

「そーデスね」


 キムは目が覚めたのか、ケロリとした顔で返っていった。全くあの国籍も本名も不明のあの男何しにきたのだろうか?一同が首を傾けたとき、あの陰謀論者の陽介が入れ替わりに店の入ってきた。


「おぉ、なんてこった。すっかり嫌がらせにやられているじゃないか!」


 陽介は少々怒りながら、落ち込んでいる連中に呆れていた。


 もともと陽介のことが嫌いな栗子は彼を睨みつける。


「もとはといえばあんたが悪いんじゃない」

「まあまあ、シープルおばさん落ち着けよ。嫌がらせは犯罪だぜ。警察に行ったのか?」


 一同は首をふる。


「俺は一応言いましたよ。でも口先だけっていうか、みんな大変だから我慢しろ的な事を言われ…」


 拓也はそんな事を言うと、石田店長も同意した。


「それにこの疫病の中、不安になる人の気持ちも分かりますし…」

「おいおい、何悠長な事を言ってるんだ。この疫病騒ぎは茶番で…」

「ちょっと! 今そんなくだらない陰謀論なんてどうでもいいでしょう!」


 栗子は羊の皮を剥がしてぐわっと陰謀論を阻止しようとすると、一同は笑い始めた。


「なんか、栗子さんと陽介さんが言い争っている姿を見ると笑えてくるわ。馬鹿馬鹿しくて」


 この日、幸子は初めて笑顔を見せた。幸子が笑顔になるとつられて他のみんなも笑い始めた。完全な笑顔というより、苦笑という感じだったが。


「疫病が本当に茶番だったらいいよな」


 和水も眉を下げて笑う。


「うん、だから茶番で、ワクチンを売る為の製薬会社の利権が…」

「ちょっと、陰謀論はやめてよね!」


 再び陰謀論を披露しようとする陽介に栗子は狼の顔で釘を刺した。さすがの陽介もシュンとして紅茶をカブ飲みして黙る。狼状態の栗子を初めて見た石田店長は目を見開いて驚いていた。


 確かに毒を盛った犯人や空美子を殺した犯人を探す事も大事だが、現在進行形の嫌がらせの犯人を見つける事が先決である。警察に頼る事も考えたが、拓也の話では頼りにならない。ここはやっぱりコージーミステリのヒロインを気取って犯人を見つけるべきだと栗子は考えた。


「まあ、俺様は農薬の闇を調べなきゃならんのだ。シープルどもに付き合っている暇はないな」


 陽介は陰謀論をあまり披露できないようだと察するとそそくさと逃げるようにカフェから帰っていった。


「みんなに聞きたいんだけど、嫌がらせはいつぐらいから始まったの?」


 栗子はカバンからメモを出して聞く。


「さっそく調査? ワクワクするわね。私は、陽介さんが来てからよ」


 幸子が言う。


「私も陽介さんの本を置いてから嫌がらせが始まりました」

「俺の店は毒の事件からだな」


 話を聞くと、やっぱりあの陽介が原因を作っているとしか思えない。石田店長は陽介の本を返品して一時期、嫌がらせは止まったそうだが、事件後、再び始まったのだと言う。


「全くあの男が原因作っているようなものじゃない!全く許せないわ!」


 逃げ足が早くもうカフェから逃げてしまったが、あとで陽介を問い詰めなければと栗子はプリプリと起こりながら思う。


「和水くんのところはいつか嫌がらせが始まったの?」


 怒ってる栗子の代わりに桃果が冷静に聞いた。


「実は、俺のところは結構昔からあったんだよ」

「本当?」


 栗子はメモをとりながら言う。


「うん。あの秋頃のお祭りの時、そんなイベントやるなっていう手紙や電話も。そういえば疫病始まってからずっとあった気がするよ。俺も親父も忙しいから無視していたんだけどさ」


 お祭りの時にそんな嫌がらせがあった事は知っていたが、まさかそんな前だとは思わなかった。


「石田書店や幸子さん達の原因はどう考えてのあのクソ陰謀論者だけど、ベーカリー・マツダの件はおかしいわね」


 栗子はしばし考え込む。


「和水くんは何か心当たり無い?」


 幸子が聞くが、和水は首を振る。


「親父は町内会長だし、なんか知ってるかもな」


 和水は心当たりが無いというが、やっぱり栗子は気になり、和水の父であり、ベーカリー・マツダの店主でもある松田直人に話を聞く事になった。


 栗子と和水だけカフェから出て、ベーカリー・マツダへ向かう。他の面々はそのままカフェで昼ごはんを食べる事になった。


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