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殺人事件編-5

 文花は約束の時間ぴったりにやってきた。いつものように地味で化粧っけのない様子だ。かくいう亜弓も今日はほとんど化粧をしていない。別に香坂今日子の時のようなお色気大作戦でも無いので、必要性も感じなかった。


「滝沢さん、早いわね。待たせちゃったかしら」

「いえ。じゃあ、一緒にいきましょう。ちょうどバスも来ましたよ」


 病院の送迎マイクロバスがちょうどやって来たので文花とともども乗り込む。バスの中は老人と中年女性が一人ずつ乗っているだけガラガラだった。

 話題は自然と事件の事になる。


「参ったわね。警察は橋本ちゃんを疑っているみたい」


 文花は橋本ちゃんから届いたメールを見て呟く。


 文花に届いた橋本ちゃんからのメールによると再び警察が来て、夕子にあげたあのチョコに毒が入っていた事は確定したそう。警察が来てかなりしつこく質問されたようで、橋本ちゃんはすっかり参っているという。


「私は橋本ちゃんが犯人とは思えない」


 文花は静かに起こりながら断言した。あのトンデモな文花が起こっているち少々怖いと亜弓は思う。


 文花の夫である作家の田辺哀夜の『愛人探偵』は打ち切りの危機にあった。この話は亜弓も知っているが、その時橋本ちゃんは『愛人探偵』をSNSでよく拡散してくれたという。また、朝比奈佳代の事件の時は犯人に繋がる証拠を見つけるキッカケを作ったのも彼女だという。


「そんな良い事してくれた人が犯人のわけないじゃない」


 何の根拠もない文花基準の推理であるが、彼女に熱意に亜弓は思わず押されてしまう。


「まあ、だからって犯人じゃないとは言えませんけど」

「どういう事?」


 文花にきつく睨まれ、亜弓は震え上がる思いがした。この怖い雰囲気の妻とよく一緒にいられるものだと田辺に対して尊敬めいた気分になる。


「橋本ちゃんには動機がないですよね。好きな夕子先生に毒を盛ったところで、橋本ちゃんは得しませんよ」

「そうよ。あの子には動機がない」

「となるとやっぱりカフェに嫌がらせをしてた人が犯人?」

「どういう事?」


 亜弓はメモを見せながら、今までわかった事を文花に報告した。


「カルトね…」


 文花は明らかに不快な表情を浮かべた。


「うちの近所にもいるのよ。草生教じゃなくて、エンジェル万歳教っていうカルトなんだけど、何度も追い払っても勧誘にくるのよね…」


 あの文花にしては珍しくカルトには辟易しているようだった。


「エンジェル万歳教ってどっかで聞いた事があったような…」

「ああ、この草生教と母体は一緒みたいよ。草生の教祖とエンジェル万歳教の教祖が親戚みたい。エンジェル万歳教はキラキラスピリチュアル風で売って若い子を取り込んでいるみたいね。教祖のルックスもアイドルみたいだから、男性信者も多いそう」

「へぇ、けっこう詳しいですね」

「うちの個人情報がエンジェル万歳教の出回っているみたいなのよ。嫌になるわね。でもこの事件がカルト関係だったら大変よ」


 文花は同情めいた視線を亜弓に向ける。


「カルトは組織化しているし、信者同士で庇い合うんじゃない? それに警察内部にも草生信者が多いみたいなのよ」


 その可能性は亜弓は考えなかった。想像以上に厄介な事件だ。これは自分と栗子の手に負えるだろうか?


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