殺人事件編-1
亜弓は真っ青な顔をして火因町総合病院のロビーに座っていた。
栗子が倒れた。
原因は何かわからが、おそらくファンからのプレゼントが原因らしい。警察にも連絡したが、まだ詳しいことは何も分かっていない。
家族のいない栗子には、桃果が病院に駆けつけた。
現在、栗子は手術中。夕子も空美子も手術中である。夕子には家族がなく、空美についてよわからないが、誰も家族は来ていないようだった。
幸子や後編集長の貝塚や円香、石田店長も警察から事情を受けられたそうだが、三人も混乱するばかりでろくに話せないという連絡も亜弓はもらった。
もちろんイベントも中止になり、カフェも警察が調べているらしい。
「どういう事? もう私は何がなんだが」
亜弓は桃果に今日一日の状況を伝えたが、自分で話していてもどういう事なのかわからない。
プレゼントに毒でも入っていたのだろうか?あの少女小説ファン達の仕業?
それにしてもわからない。
熱心であるが、そのまでするファンには見えないし、何より動機が不明である。栗子を狙ったのか、夕子や空美子を狙ったのかもわからない。
三人はとても恨まれるタイプに見えない。栗子と仲が悪いのは陽介ぐらいのものだが、わざわざ毒を仕込んで殺すような真似をするとは思えない。むしろあの口の悪さで栗子を精神的に追い詰めた方がよっぽど良いではないか。
そんあ事を考えていても答えはでず、ただただ亜弓達は祈るような気持ちで手術が終わるのを待った。
夕方ごろ、手術が終わった。
結局栗子には身元保証人がいない為、亜弓と桃果がその役割を緊急的に担い医者から説明を受ける事になった。夕子や空美子に関しては編集長の貝塚が身内に連絡をとっているところで、遠方から駆けつけている最中らしい。
医者の話によるとやはり何らの毒が原因らしい。意識がなくなり、手足に痺れなどが見られる。ただ、そう重傷でもなく、三日から一週間程度入院すれば回復するだろうと言う話だった。手に痺れがあり、パソコン作業中止。執筆活動も当然できないという話で、編集者として亜弓は医者に釘を刺された。
もう三人とも意識は戻り病室のベッドで休んでいると言うので、さっそく桃果と向かう。
病室には顔色がかなり悪い栗子、夕子、空美子が横たわっていた。
夕子や空美子は口が聞けないほどぐったりとしていたが、栗子は羊の皮を剥がしてブーブー文句を垂れていた。
「一体どう言う事? コージーミステリでもよくある毒の事件?」
さっそくコージーミステリのヒロインを気取ろうとそているので、メンタルの方も大丈夫だろう。一方、夕子や空美子が本当にショックを受けているようだ。
「まさか、私達のファンが…?」
「どうして、そんな…」
ファンからのプレゼントに毒が入っていた可能性が高いと彼女達も気づいていた。精神的ショックが隠せず、特に空美子の方は、顔が人形のように真っ白である。
「あれ、なんか手が痺れてちょっと動かないんだけど」
栗子が両手を見つめながら不満気に言った。
「毒の影響で一時的に手の痺れがあるそうです」
亜弓が言うと栗子は顔を顰めた。
「だからお仕事でパソコン作業もしばらく中止だって。シーちゃん」
「えー? 少女小説だってもうすぐ終盤だったし、コージーの方だって常盤さんから訂正箇所も指摘されてこれから直すところだったのに!」
明らかに栗子は不満気だ。
「まあ、しばらく原稿から休めるなら、私は逆にラッキーかも」
「私も」
夕子と空美子はそんな事を言っていたが、栗子は明らかに不満気で頬を膨らませていた。
「食事はどうなるの? これでお箸持てる?」
亜弓と桃果は顔を見合わせた。
「シーちゃん、非常に言いいにくいんだけど、しばらく点滴で栄養だって」
「え!?」
栗子の羊の顔が剥がれ始めた。
「どう言うことよ。食事もダメなの?」
こんな大声で文句を言っているが、手が使えないのだから仕方ない。といっても3日ぐらいのものだが、栗子は狼状態になった。
「この毒を盛った犯人は絶対許せないわ。そうよ、こんな事してイベントも中止にさせるなんて!」
未の皮が剥がれた栗子に夕子も空美子も目を丸くして驚いていた。はじめてこの姿を見るのなら無理も無いだろう。
「犯人は私が捕まえるんだから!」
毒を盛られた後なので若干頼りない声ではあったが、栗子ははっきりと宣言した。
亜弓と桃果はいつもの事だとやれやれとため息をついた。




