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毒入りチョコレート編-4

 サイン会の日も決まり、着々とその日が近づいていた。


 バレンタインも近づき、商店街に入り口にはピンクハート風船がなどで飾られている。


 ベーカリー・マツダではチョコクリームパンやチョコドーナツ、チョコラスクなどチョコレートフェアを開催中。キムの輸入食品店も店頭にハイカカオチョコレートや生チョコが大きく置いてある。


 ケーキ屋スズキもバレンタインからホワイトデーにかけて1ヶ月以上、チョコレートフェアが開催中で、ケーキやタルトだけでなく、生チョコも大きく売られていた。ここの生チョコは以前タウン誌に載った事もあるらしく、ちょっと有名で連日女性客の行列が見えた。明日がバレンタインなので余計に混んでいるようだ。


 栗子はそんな行列を横目にしつつ、幸子のカフェに向かった。


 今日は2回目の読書会だった。少女小説の仕事は何とか半分以上終わらせ、そろそろ読書会にも行ってもいいだろうと亜弓に言われていた。ちなみにコージーミステリのは筆が乗り、1週間ぐらいで初稿をノリノリで書き上げてしまった。昨日、常盤に原稿データを送ったら予定よりも早期に出来たため大変喜ばれた。やっぱり好きな事を書いていた方が筆が進む。


「こんにちわ、幸子さん」


 さっそく入店すると幸子に迎えられた。


「今日はあのフルーツティーとチーズケーキがいいわ。これは今日どうしても食べたいの」


 さっそく食べたいものを幸子に言いつけ、読書会用の丸いテーブルにつく。


 今日の参加メンバーはこの町の牧師の三上千尋、昼出版編集者の佐藤円香(さとうまどか)、あと知らない若い女性が一人だけだった。髪をピンクに染めて、赤いフチの眼鏡をかけ、ちょっと個性的な雰囲気だ。


 円香はサイン会の打ち合わせで石田書店で何度かあっている。ちょっと鈍臭いが若い女性編集者である。濃いめの化粧がちょっと浮いている。


「はじめまして。私は作家の亜傘栗子(あがさくりこ)です」


 知らない女性は隣に座っているので、栗子は挨拶をした。


「わ! 栗子先生ですか! はじめまして。私は橋本美沙子です。少女小説好きです。橋本ちゃんって呼んでください!」


 ちょっと興奮した様子だった。


「そういえばあなたの事うちの滝沢亜弓から聞いたわ。なんか私のファンが失礼な事言ったんですってね」

「いえいえ。そんな、私が悪いんです」


 橋本ちゃんは恥ずかしそうに俯いた。悪い子には見えない。むしり自分にファンが失礼な態度をとっていたと亜弓から聞いていたので、恥ずかしい思いだ。


 幸子がお茶やお菓子の注文をとり、テーブルに運ばれていく。みんな揃ってフルーツティーを注文していて栗子はニヤリと笑う。やっぱり評判がいいようだ。


「では、皆さん。軽く自己紹介をして推しの本を紹介しましょう」


 幸子がそう言って第二回の読書会がスタートした。


「えぇ、僕は三上千尋(みかみちひろ)です。この町の牧師で、聖書を推します!」


 千尋は大きな声で熱っぽく聖書を片手のプレゼン。昔は引きこもりで親である牧師が信じているキリスト教が嫌いだったが、ふと聖書を読みはじめ救われたという事を実に感動的な口調で話していた。これは神様がいる証だという。普段から礼拝で説教している千尋は、声がよく通り、話も上手く面白かった。


「そんな事言われると聖書読んでみたくなるわ」


 栗子はそういったものの、編集者である円香は白けた顔をしていた。露骨な態度でちょっと嫌な感じだ。


 円香は、蒼井カイリの『余命666日の花嫁』をプレゼン。ヒット作だが、円香が務める昼出版のものでは無い。栗子がなんとなく空気が読めない女性に感じた。


 最後に橋本ちゃんは、少女小説のガイドブックをプレゼン。最近はネット初の女性向けファンタジーが流行っているが、「少女小説がもともと女性向けにファンタジーやってたんだから読め!」と若干ヲタクらしい口調で叫び、読書会が笑いに包まれた。円香のプレゼンでは全く盛り上がらなかったが、橋本ちゃんの話におかげで参加者一同笑顔が戻る。


 最後に栗子が、コージーミステリの貧乏お嬢様シリーズをプレゼン。名ばかりの貧乏公爵令嬢がヒロインのコージーミステリだ。嬢様がヒロインで恋愛もあり、話も面白く、少女小説好きにも楽しめるだろうと力説。


 橋本ちゃんが栗子の話に食いつき、彼女の持ってる少女小説ガイドブックと交換する事になった。


 千尋は目頭を熱くしながら聖書を読んでいて、時々「イエス様かっこ良すぎ…。イエス様尊い…」などとぶつぶつ言っている。亜弓は千尋にお熱のようだが、この様子では女自体が入るスキは全く無さそうである。今回の亜弓の恋愛も上手くいかない事が目に見えていた。


 円香は読書に退屈しはじめ、ケーキやシュークリーム、プリンなどをガツガツと食べていた。体型通りよく食べる人物のようである。この様子ではカフェのショーケースにあるケーキ類は完売してしまうかもしれない。


「そういえばあなたサイン会は来る?」

「来ますよ!」


 貧乏お嬢様の文庫本にしおりをはさみ、ちょっと読書を休憩してフルーツティーを飲んでいる橋本ちゃんに話しかける。


「栗子先生の前で言うのもなんなんですが、最近は夕子先生のファンになってしまい…。プレゼントでケーキ屋スズキの美味しいチョコレートもあげる予定なんですよ!」


 橋本ちゃんはヲタクっぽくぶつぶつと早口で捲し立てた。


「そうなの。あそこのチョコは美味しいわよね。ところで貧乏お嬢様シリーズ一作目の『貧乏お嬢様、メイドになる』は面白い?」

「ええ。私はこう言った海外ミステリは読まないんですが、これはちょっとヒロインの境遇が少女小説っぽいし、ストーリーも展開が早くて面白い」

「やっぱり! そうでしょ。このシリーズはまだまだいっぱい出ていて…」


 栗子と橋本ちゃんは、ひとしきり貧乏お嬢様シリーズで盛り上がっていた。


 円香はこれから用事があるち、ケーキやシュークリーム、プリンなどをお土産にもいっぱい買って帰っていった。


 読書会が終わった後もカフェが何かイベントをやっているのが気になった客が何人か入店し、カフェは繁盛していた。第二回読書会も概ね成功と言って良いだろう。


 栗子は満足してカフェを後にした。




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