毒入りチョコレート編-3
「あらぁ。島崎さん達相変わらずなのね…」
読書会から帰ったきた亜弓は、メゾン・ヤモメのリビングに直行した。栗子は少女小説は第3章まで書き上げたと満足気だった。その後桃果と一緒にレン様のドラマを見ていたようだ。
飼い猫のルカは、桃果の膝の上でふにゃ〜と鳴いていた。
亜弓はぐったりとした気分で、今日の読書会の様子を二人に報告。
桃果は呆れ、栗子はちょっと楽しそうな表情を浮かべていた。
「島崎さんって聖ヒソプ学園の寮長先生だっけ?」
桃果が尋ねる。
「ええ。カトリックの女子校ものを書いたとき、聖ヒソプ学園に取材に行ったら、なんか逆に崇められちゃったのよ。時々、私の事も神様って呼んでたわ」
「うわぁ。想像以上のヲタクっぷりですね。ここまで来ると笑えませんね。気持ち悪い」
亜弓はため息をつき、テーブルの上に載っているポテチを摘んだ。スパイシーソルト味でキムの輸入食品店で買ったものだ。
真凛の誘拐事件ではとんでもない目にあったキムだが、今はすっかり持ち直して元気に営業中。一時期はどうなる事かと危ぶまれたメゾン・ヤモメの食卓も、こうして守られた。特にここの住人はあそこの店の紅茶が好きなので、これが無くなってしまうとかなり困る。亜弓はしみじみと感謝しながら、自分のカップにポットから紅茶を注いで飲んだ。
「でもまあ、いいのよ。島崎さんも独身だから寂しんでしょうね。小説ぐらいの楽しみがあってもいいじゃない。本気で私の事を神様だなんて思って無いわよ。あの人は一応カトリック信者ですし」
栗子は呆れながらも、決定的に島崎達を悪く言う事はなかった。
「それよりカフェの方はどうだった? 繁盛していた?」
栗子はおっとりと人の良さそうな顔で微笑んだ。今は機嫌が良いようで羊の皮を完璧に被っていた。
「ええ。読書会の面々はお土産でケーキやプリンなどをいっぱい買ってましたし、あの後賑やかになってるカフェを見てお客さんがいっぱい入ってきましたよ」
「そうなの? だったら良かったじゃないの」
栗子は自分の事のように喜ぶ。桃果も幸子さん良かったと笑っている。こうして二人の笑顔をみていたら、亜弓の毒気も抜けてしまった。
「まあ、最終目的としては達成できていますけど」
「だったらいいじゃない。あとは幸子さんのカフェや石田書店に嫌がらせをした犯人を見つけることね」
栗子は今だにこの犯人が気に食わないようだった。
「亜弓さん、その犯人を見つける心あたりはない?」
「そうですねぇ」
「現行犯で捕まえるしかないじゃない? シーちゃん」
しばらく三人で嫌がらせをした犯人を捕まえるアイデアを考えたが思い浮かばない。結局、陽介の陰謀論が諸悪の根源という事になり、彼に活動を控えるよう言う他無いようだった。




