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毒入りチョコレート編-2

「最後は亜弓さんね。どんな本は好き?」


 司会役の幸子に促され、亜弓は栗子の『パティシエ探偵花子!』を見せた。香坂今日子の事件の思い出なども語る。何故だかこの本が犯人を見つけるきっかけになってしまった事を思い出すと、やっぱりここで推薦したくなった。


 しかし、亜弓のプレゼンが終わった後、拍手をしたのは幸子、文花と橋本ちゃんだけだった。他のものはむしろブーイングでもしそうな表情だった。何か失礼なことでも言ってしまったのだろうか。


「私、正直栗子先生がコージーミステリを書くなんて、すごい嫌」


 真凛が拗ねたように言い、ガツガツと注文したシュークリームを食べた。


「へぇ、なんでそんな事言うの? まあ、私も夫に筆折れってよく言ってたけど」


 さらりと文花が怖い事を言うので、すっかり真凛は怖がってしまった。文花は子供に好かれるタイプでは無いだろう。


「そうよ。コージーミステリなんて最低だわ。栗子先生にはまた女子高舞台の話を書いて欲しい」


 今度は島崎が口を尖らせた。怖い雰囲気の女が二人続けて発言したので、この場合の雰囲気はすっかり暗い。


「まあ、島崎さんの言うこともわかるわ…。私だって平安時代の溺愛少女小説書いて欲しい。大正時代もいい」


 未羽がちょっとうっとりした表情でいう。


「ですよね! 全くなんで『龍神様の花嫁』絶版にしちゃったんだろう」


 真凛が言っていたが、亜弓は心の中で「お前のせいだろ!」と盛大に突っ込んだ。真凛がその小説を読んで誘拐犯に自ら接触しに行ってしまったため、栗子は責任感を感じてこの作品は絶版にしたのだった。全くこの娘は栗子の前では反省した素振りを見せていたのに、舌の根が乾かぬうちにこの有様である。亜弓は頭が痛くなるような思いがした。


「でもあの作品って今出したら絶対売れましたよね。なんか理不尽」


 今度は未羽がボソボソと愚痴をいう。


「今はいいわよね。女性向けののファンタジーが人気で。10年前ぐらいの少女小説界隈なんて打ち切りばっかりで本当に酷かったのよね」


 島崎がそう言い、愚痴大会が始まってしまった。いかに栗子が不遇で今の作家が恵まれているかなどなど。特に栗子のファンである島崎、真凛、未羽が熱っぽく語り、他の面々は少々引いている。亜弓もヲタクすぎるのではないかと、少し不安になるぐらである。自分のプレゼンも否定されたようで、地味に傷付いてはいた。


「そうよね、特に青村夕子先生なんて上手いこと売れてさ」


 真凛がそう言い、愚痴は夕子への批判も増えて行く。


「10年前、少女小説を書いていたら絶対売れなかったわ。元祖和風シンデレラストーリーの作家は栗子先生よ」


 コミュ障っぽく見えた未羽もはっきりと意見を言っていた。批判的な事だと口達者のようだ。もしかしたらネット弁慶なのかもしれない。


「ちょっとあんまり夕子先生の事を批判しないでくださいよ〜」


 批判の的になってしまった夕子のファンである橋本ちゃんは泣きそうだ。意外な事にそんな橋本ちゃんを文花がなだめていた。


「そう? ハッキリと言って夕子先生は運がよくて売れたようにしか見えないけど」


 鬼ババアのように怖い雰囲気の島崎に凄まれ、橋本ちゃんはすっかり萎縮してしまい食事代を払って帰って行ってしまった。お局の新人いじめみたいである。あの文花も呆れ顔である。亜弓もドン引きだ。


 いっそ、栗子本人は少女小説など全く描きたくなくコージーミステリに執着している事を暴露してやりたかったが、気の強そうな美少女、鬼ババアのような雰囲気の熟女、ネット弁慶っぽい性格の悪そうなアラサー女相手に勝てそうに無い。


 なんなんだ、この気持ち悪いヲタク女集団は。栗子のファンは熱心なものが多いが、こんな濃い連中を飼っているとは亜弓ははじめて知った。


「まあ、あなた達も編集部に文句言ったらいいんじゃない? 私もよくアポ無しに嫌がらせのように編集部にクレーム付けてるわよ」


 間の悪い事に文花が、このかなり熱心なヲタク女達をけしかけるような事を言い始めた。


「基本的に編集者何て糞なんだから、文句の一つや二つぐらい言った方が言いわよ。私の夫もよく編集者と不倫してたからね」


 ヲタク女達の視線が、一気に亜弓に集中する。ヲタク女達は、これを機に亜弓にさまざまな文句をつけ始めた。


 きっかけを作った文花は涼しい顔でアイスティーをごくごくと飲んでいた。


「ちょっと文花さん、この人達本当にしつこいですよぉ〜」


 文花に助けを求めたが、彼女はふふふと薄ら笑を浮かべているだけだった。こうして第一回目の読書会は、嫌な気分になりつつ終了した。

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