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ヴァラール魔法学院の用務員は今日も問題を起こす  作者: 山下愁
第12章:紅蓮の射手〜問題用務員、試験会場乱入事件Ⅱ〜
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第5話【異世界少年とドラゴン討伐】

 さあ、ユフィーリアから教えて貰った魔法の使いどころだ。



(地面を想像して)



 身体能力上昇魔法フィジカル・アップを使用して風のように駆けるショウは、黒い鱗を持つドラゴンを睨みつけた状態で地面を蹴飛ばす。



(飛び乗るように!!)



 軽やかに空中を舞うショウ。


 着物を魔改造した黒い外套コートの袖がバタバタと暴れ、常人では考えられないほど高く跳ぶ。

 そのまま放物線を描いて芝生に覆われた校庭に降り立つ訳ではなく、ショウの足は虚空を踏みつけて止まった。どうやら想像は成功したらしい。


 空中歩行魔法――男子にのみ許された大空を地面のように駆け回る魔法だ。つい先程、ユフィーリアから教えて貰ったばかりの魔法を実践してみた。



「ッ!!」



 すぐ近くを紅蓮の炎が通り過ぎ、ショウは身を捻って回避する。


 右目を潰した黒いドラゴンの顔面が、すぐそこまで迫っていた。

 爬虫類を思わせる左目が、ショウを真っ直ぐに睨め付ける。「よくもやってくれたな」と言わんばかりに。


 それでも、ショウは恐れなかった。咥えた呪符をギリッと噛み締めると、燃える長弓を構える。



「GYAGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」



 苛立たしげに咆哮を轟かせたドラゴンの喉を狙って、炎の矢を叩き込む。


 喉奥に吸い込まれた炎の矢は、ドラゴンの口の中で爆発する。

 ぼふん!! と間抜けな爆発音がドラゴンの口から漏れて、黒色のドラゴンは左目を見開いて驚いている様子だった。何をされたのか理解するのに時間がかかったようで、反撃として炎を吐き出した先にショウはすでにいなかった。


 燃える長弓を構えて、ショウはドラゴンの側面に回り込む。せめて翼でも射抜いて、空に逃げられないようにしてやる為に。



「ッ!!」



 その時、ショウの口に咥えていた呪符が燃え落ちてしまった。


 真っ赤な炎に包まれて燃えかすとなってしまう呪符。黒く焼け焦げた紙がパラパラと荒らされた芝生の上に落ちる。

 それと同時に、ショウの足元がガクンと下がった。身体能力上昇魔法フィジカル・アップが解けたことに動揺して、空中歩行魔法を発動していたことを疎かにしてしまったらしい。


 落下を開始するショウの身体。空中歩行魔法を発動させようにも、落下の衝撃で想像が上手くまとまらない。



「わああああああああああああああああああッ!?!!」



 思わず悲鳴を上げてしまう。


 地面に叩きつけられる衝撃に備えるべく、ショウはギュッと固く目を瞑った。

 しかし、ショウの身体を襲ったのは地面に叩きつけられた衝撃と激痛ではなく、ふさふさとした何かだった。手触りがよく、いつまでも触っていたくなる。


 そっと目を開けると、灰色の体毛が目の前にあった。次いで「わふんッ」という鳴き声が耳朶に触れる。



「エドワードさん!!」


「わふッ、わふッ」



 巨大な狼の姿となった用務員の先輩、エドワード・ヴォルスラムが「大丈夫ぅ?」と言わんばかりに吠える。


 ショウは「ありがとうございます」とエドワードの背中を撫でてやった。お礼のつもりである。あとついでにエドワード自慢の毛皮を堪能する為だ。

 ふさふさの尻尾を千切れんばかりに揺らすエドワードの目の前に、ドラゴンの炎が過った。そのせいでエドワードの尻尾が恐怖のあまり垂れてしまった。


 動いていないのをいいことに、ドラゴンが左右に引き裂かれた口を大きく開けた。その喉奥に赤い輝きが見える。威嚇でも何でもない、本当の敵意を持ったドラゴンの炎が牙を剥こうとしていた。



「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!?!!」



 唐突にドラゴンが悲痛な絶叫を上げて、長い首を振り回す。


 ドラゴンの炎が強制的に終了した隙を見計らって、ショウを乗せたエドワードが校庭を走る。ドラゴンから距離を取ったことで、何故ドラゴンが急に悲鳴を上げたのか理解できた。

 翼が片方もがれていた。根元からザックリと切断されたのか、大量の鮮血が流れて芝生に覆われた校庭を真っ赤に濡らす。


 切断されたドラゴンの翼が地面に落ちると同時に、大剣を担いだ黒いつなぎ姿の少年が綺麗な着地をした。


 爛々と輝く琥珀色の双眸でドラゴンを睨みつけ、血に濡れた大剣を片手で軽々と担ぐ用務員の先輩、ハルア・アナスタシス。

 彼の表情にはいつも浮かべられている笑みが消え、ゾッとする冷たさを感じる無の表情が貼り付けられていた。それだけで、彼が物凄く怒っているのをショウは察知した。



「後輩を虐めてんじゃねーぞ、トカゲ野郎が!!」



 いつもより何倍も口汚くドラゴンを罵ると、ハルアは大剣を掲げて走り出す。


 吐き出される炎を回避し、大剣の切先を黒いドラゴンの尻尾に突き刺した。

 硬いと謳われるドラゴンの鱗で覆われた尻尾も、龍殺しの恩恵を与えられた神造兵器であれば簡単に切断されてしまう。スパッと綺麗に切れたドラゴンの尻尾がビチビチと跳ね回り、その様は切り離された蜥蜴とかげの尻尾のようだ。


 尻尾を切られたドラゴンは、痛みのあまり悲鳴にも似た鳴き声を響かせる。心なしか、左目にも涙に似た液体が浮かんでいるように見えた。ドラゴンでも泣くようだ。



「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」



 憤怒が隅々にまで巡らされた咆哮が耳を劈き、ドラゴンは大剣を構えるハルアを睨め付けた。


 左右に引き裂かれた大きな口が開かれる。生え揃った牙の向こう側、喉の奥に先程よりも鮮烈な赤色が灯った。

 ドラゴンと距離を取ったはずなのに、何故か肌を焼くような熱気を感じる。生暖かな風が吹き、ショウの髪やエドワードの灰色の体毛を揺らした。



「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」



 それはドラゴンの渾身の雄叫びのようだった。


 喉が大きく膨らんだと思えば、ボッと勢いよく巨大な炎の塊が吐き出される。

 さながら太陽の如くメラメラと勢いよく燃え盛る炎の塊は、触れた相手を消し炭にするどころか、地面に触れればどれほどの範囲で燃え広がるか分かったものではない。


 最強とも呼べる幻想種を舐め過ぎたのか、あるいはドラゴンの起死回生を図る奥の手なのか。どちらにせよ、ショウたちはドラゴンを本気にさせてしまったようだ。



「――――」



 このまま『狂王の炎宴(ルナ・フェルノ)』でどうにか出来るような代物ではない。


 かと言って、ショウは防衛魔法を使えない。まだユフィーリアに習っていないのだ。

 使える魔法は浮遊魔法と身体能力上昇魔法フィジカル・アップ、それから空中歩行魔法ぐらいのものである。あの火球をどうにか出来る魔法は知らない。



「〈怖いものを素敵なモノへ《フィアーズ・トリック》〉♪」



 その時だ。


 今まさに地面へ落ちようとしていた巨大な火球が、横から飛んできた1枚のトランプカードに触れた途端に大量の白い鳩へ変貌を遂げる。

 一斉に空へ飛び立つ鳩の群れに、何が起きたのか理解が出来なかった。ドラゴンもまさか自分の最大の切り札が大量の鳩に変身するとは想定していなかったようで、残った左目を見開いて驚いていた。



「みんなが頑張ってるんだもノ♪」



 サク、と芝生を踏みしめる音。



「おねーさんも頑張らなきゃじゃなイ♪」



 トランプカードを人差し指と中指の間に挟んでドラゴンを見据える南瓜頭の娼婦――アイゼルネが、実に楽しそうな口調で言う。



「アイゼルネさん……!!」


「まあでも決着はすぐにつきそうよネ♪」



 アイゼルネの長い指先が、黒いドラゴンに向けられる。


 自分の起死回生の攻撃が打ち消された衝撃により放心状態のドラゴンに肉薄したハルアが、真っ黒なドラゴンの背中を駆け上がる。

 気がついた時にはすでにハルアはドラゴンの首元まで到達し、片腕1本で振り回す大剣でドラゴンの喉を引き裂いていた。



「うりゃーッ!!」



 空に響き渡るハルアの雄叫び。


 引き裂かれた喉から真っ赤な鮮血が雨のように降り注ぎ、ドラゴンはその巨大な身体を校庭に横たえた。

 起き上がってまだ戦うかと警戒するが、あれだけ血を噴き出していれば絶命は近い。それにハルアが倒れたドラゴンの頭を大剣で切り落としたので、もう完全に生き返る可能性はなくなった。


 全身を真っ赤に染め上げたハルアが、切り取ってきたドラゴンの首を引き摺りながらエドワードに跨るショウの元までやってくる。



「大丈夫だった!?」


「平気だ」



 エドワードの背中から降りながら、ショウは今日の功労者であるハルアを労う。



「お疲れ様、ハルさん。格好良かったぞ」


「えへへ、ショウちゃんもありがとうね。オレ、炎に焼かれて死んじゃうかと思ったけど、ショウちゃんが右目を潰して意識を逸らしてくれて助かったよ!!」



 照れ臭そうに笑ったハルアは、



「そう言えば、ユーリは!?」


「おかしいわネ♪ ショウちゃんがピンチになってたのに、黙って見ているとは思えないけド♪」



 確かにその通りだ、とショウは納得する。


 ドラゴンを数多く討伐した成績を誇るハルアがいるとはいえ、何度か窮地に立たされたのだ。しかもショウは空中歩行魔法が途中で解除してしまった影響で、落下死する危機に陥ったのだ。

 あの時はエドワードがいなければ危なかったが、ユフィーリアならいの一番に助けると思ったのだが。



「……ユフィーリア?」



 校庭を見渡しても、銀髪碧眼の魔女の姿はなかった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 山下愁さん、おはようございます! 新作、今回も楽しく読ませていただきました! ドラゴンVS用務員チームの戦い、とても面白かったです!それぞれの得意とする戦いを、上手く連携をつなげているシ…
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