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ヴァラール魔法学院の用務員は今日も問題を起こす  作者: 山下愁
第9章:何でも揃っているお店〜問題用務員、購買部店番大波乱事件〜
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第5話【店長のご帰還】

「全く、君たちは本当に成長してないよね。身体だけ成長して、精神は一生子供のままでいるつもりなのかな。大体――」



 長い。

 あまりにも長い。


 クドクドと永遠に説教が続き、ユフィーリアたち問題児は素直に説教を受ける気力すら一瞬で消え失せた。


 そもそも説教が出来る立場ではないのだ、この学院長。

 過去に2度もショウを魔力暴走オーバーロードの状態に陥らせ、挙げ句の果てに「僕の方が上手く使えるから、彼を頂戴ちょうだい」と言ってきたのだ。人命軽視も甚だしい発言である。よくもまあ教育者として働けるものだ。


 正座の状態から胡座あぐらの状態に移行し、説教を右から左へ受け流すユフィーリアは未だに説教を止める気配のない学院長へ訴える。



「なあ、グローリア。それいつ終わる?」


「ユフィーリア、僕の話を全然聞いてないね!?」


「最初は聞いてた。3秒で聞くのを止めたけど」


「それは聞いてるとは言わないんだよなあ!!」



 深々とため息を吐いた学院長のグローリアは、



「僕がいない間、少しは大人しくしていたみたいだけどさ。でも、その……ゴニョゴニョ……」


「あ? 聞こえねえよ」



 後半に連れて学院長の言葉が不明瞭になってきたので、ユフィーリアは聞き返した。


 他人には言えないことを常日頃から考えているにも関わらず、生命の存続に必要なブツの名前を言えないとは何事だろうか。今頃カマトトぶっても遅いのである。

 グローリアは頬を少しだけ赤く染めながら「だからぁ!!」と語気を強め、



「その……ひ、避妊具……を、遊び道具に使うなんて子供のやることでしょ!!」


「何をそんなに恥ずかしがってんだよ、可愛くねえぞ」


「可愛くなくたっていいんだよ!!」



 冷やかしを受けたことで悔しそうに叫ぶグローリアは、



「まあでも、僕が怒るのは筋違いだよね。ここはあの黒猫店長の縄張りなんだし」


「店長は留守だぞ」


「どこに行ったの?」


「嫁さんの出産に立ち会ってるってよ」



 ユフィーリアが店長の行き先を告げれば、彼は紫色の瞳を音もなくすがめて「ふうん」と呟く。


 彼がこんな表情をする時は、決まって魔法の実験しか考えていない。

 長い付き合いだから分かるのだ。分かるからこそ、ユフィーリアは次の行動に出る。


 ポツリとグローリアがよからぬことを言う前に、人差し指と中指を立てる。長手袋で全体を覆っているのが通常の形態だが、現在は深海の如き暗めの青い爪紅マニキュアを塗っているので指先だけ露出している状態だ。

 ユフィーリアの指先の状況にも気づかず、人でなし学院長は思った通りの言葉を口にする。



「1匹ぐらい実験に使え――」



 ぶっすり、とグローリアの紫色の眼球にユフィーリアの人差し指と中指が突き刺さった。



「あああああああいああああああああああああい!?!!」


「うるせえな」


「ひ、他人の眼球を潰しておきながら『うるせえな』って何!? 暴君か何かなの!?」



 潰された眼球を押さえてジタバタと地面でのたうち回るグローリアへ冷ややかな視線を突き刺しつつ、ユフィーリアは少し濡れた人差し指と中指をエドワードの野戦服で拭う。



「ちょっとぉ、俺ちゃんの服で拭かないでよぉ」


「いいだろ、元々汚ねえんだから」


「ちゃんと洗ってますぅ。変な言いがかりは止めてくださぁい」



 ユフィーリアとエドワードが下らないやり取りをしている横で、目潰しを食らったグローリアに更なる追い討ちをかける人物がいた。



「どこまで海老反りできますかね」


「限界を超えてみようね!! 学院長!!」


「アダダダダダダダダダダダッ!? ちょ、まッ、背骨が背骨ェ!!」



 うつ伏せに転がされたグローリアの背中にハルアが乗り、顎を掴んで背筋を強制的に反らすという拷問をやられていた。見た目は本当に海老みたいに反っている。背骨に大ダメージである。

 ちなみにグローリアの正面ではショウが膝を抱え、感情のない赤い瞳でじっと苦しむ学院長を見つめていた。悪夢に出てきそう。


 そんなやり取りを購買部の前で繰り広げているものだから、こうなることは必然的だった。



「何してるのニャ……?」



 お祭りのようにぎゃーぎゃーと騒がしい店先を眺め、山高帽を被った黒猫が傍らに旅行鞄を置いて呟いた。


 帰ってきたら問題児筆頭とその右腕的存在は取っ組み合いの喧嘩をし、南瓜かぼちゃ頭の娼婦がそれを囃し立て、問題児で1番の馬鹿と新人が揃って学院長を虐めているという混沌に混沌を極めた状況である。誰かに説明を求めても脳が理解を拒否する。

 黒猫店長の存在に気づかず、購買部前の大波乱は午後の授業が終わるまで続いた。



 ☆



「びっくりしたのニャ。まさか学院長様と喧嘩をしているとは思わなかったのニャ」



 黒猫店長は会計台の上にチョコンと腰掛け、山高帽を脱ぎながらそんなことを言う。


 グローリアは購買部に足りなくなった紅茶を買いに来ただけなので、黒猫店長が接客をして帰っていった。店内にいたユフィーリアと目が合うと彼は「あかんべー」と舌を出してきたので、魔法を使ってすっ転ばせておいた。

 その際に茶葉が飛び散ったとか嘆いていたが、そんなの知るか。喧嘩を売ってきたのは向こうである。


 ユフィーリアはグローリアが立ち去った購買部の外を一瞥し、



「店長」


「はいですニャ」


「嫁さんは無事か?」


「それはもう!!」



 黄色い双眸を爛々と輝かせてユフィーリアに詰め寄る黒猫店長は、



「可愛い子供がたくさん生まれたのニャ。学院長にもご報告しなきゃいけないのニャ」


「いやそれは止めとけ」


「何故ですニャ?」


「何でもだよ」



 黒猫店長は、グローリア・イーストエンドという魔法使いの残虐さに気がついていない。迂闊に生まれたばかりの子供を学院長に紹介すれば、無事では済まないだろう。確実に1匹か2匹は犠牲になる。


 不思議そうに首を傾げる店長だったが、ユフィーリアの真剣さに何かを察知したようで「分かりましたのニャ」と応じる。

 無知でも、店長は頭がいい。こういうことにはすぐに気がつくのだ。



「では店番のお礼をしなければならないですニャ」


「え? 何、臨時給料?」


「違うですニャ」



 黒猫店長は器用に片目を瞑ると、



「ここは購買部ニャ。何でも揃うのが売りなのニャ。お客様の要望にお応えするのがミィのお仕事なのニャ」



 ぽふぽふ、と黒猫店長は自分の手を叩く。人間だったらパンパンという音がしたのだろうが、生憎と店長は猫又なので可愛い音しか聞こえない。



「皆様が求めるお品物をお部屋にお届けしたのニャ。縮小魔法を使っているので、ちゃんと広いところで開けてほしいのニャ」


「なるほど、店長も粋なことをするな」



 ユフィーリアはニヤリと笑う。


 店長の使った縮小魔法は、ものを小さくする魔法である。

 大きなものを小さな箱に収納したい時に用いられ、箱を開けたら中身にかけられた縮小魔法は解けるのだ。贈り物をした際に相手を驚かせる手法なんかで使われ、子供に大人気の魔法である。


 店長がそんな魔法を使うということは、箱の中身は結構大きいもの――そしてそれは、ユフィーリアたち問題児が買い求めようと思っていた代物だ。



「で、店長。代金は?」


「本日の労働対価ですニャ」



 黒猫店長は茶目っ気たっぷりに笑うと、



「またお仕事を手伝ってくれるなら、今度は別のものを考えますのニャ」


「店長が学院長をした方がいいんじゃねえか?」


「責任の重さが違いすぎるので勘弁ニャ」



 ところで、と黒猫店長はスススとユフィーリアに近寄る。



「避妊具の箱が開けられている上に、数がやたら減ってるのニャ。まさか生徒に売ったのかニャ?」


「水風船にして遊んだ」


「ああ……ニャるほど」



 納得した様子の店長である。しかもどこか安心している。



「ミィも購買部の店長の矜持プライドがあるのニャ。生徒が冗談でも買い求めたもの以上、店頭に置いてないのは沽券に関わるのニャ。でもやっぱりそういうブツは表に出したくニャいし……」


「タダで譲ってくれるなら処分するけど」


「いいんですかニャ? 助かるのニャ!!」



 喜ぶ店長に綺麗な笑みを見せるユフィーリアだが、その笑顔のまま彼女は部下たちに言う。



「水風船戦争、リベンジだな」


「今度は学院長でも狙おうよぉ」


「せっかくお勤めから帰ってきたしね!!」


「歓迎しなきゃネ♪」


「顔面に叩きつけてやる……」



 面倒な品物を処理できたと嬉しそうな店長の側で、ユフィーリアたち問題児は水風船戦争の再戦を企むのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 山下愁さん、おはようございます! 新作、今回も楽しく読ませていただきました! >君たちは本当に成長しないよね。 学院長に盛大なブーメランで笑いました。いや、散々やらかして冥府送りになっ…
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