表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヴァラール魔法学院の用務員は今日も問題を起こす  作者: 山下愁
第5章:世界樹は悲劇を望むか〜問題用務員、図書館中枢保管庫全焼事件〜
34/109

第4話【神父との再会】

「ふふふ」



 空中を自由に泳ぎ回りながら、ショウは楽しげに笑った。


 重力に反発するようにして、虚空に浮かんでいるのだ。しかも自由自在に動き回ることが出来る。

 元の世界では絶対に出来ない行為である。魔法という技術がなく、逆に科学が発展しているのでこの世界とは対になる存在だと思う。


 本棚の群れを縫うように飛び回り、ショウは詰め込まれた書籍の題名を眺める。



「転移魔法、死者蘇生魔法……こっちには変身の魔法がある」



 いつのまにか魔導書が置いてある区域までやってきたようだ。


 魔導書図書館の本棚はどれもこれも背が高く、床に降り立って見上げれば確実に首が痛くなるほどだ。なるほど、空を飛ぶ魔法はこの魔導書図書館で本を探す際に最適な魔法だ。

 ずらりと並ぶ魔導書の題名はどれも興味を惹かれるものばかりで、可能なら手に取って読んでみたい。ユフィーリアに言えば魔導書の貸出方法も教えてくれるだろうか。



「聞いておけばよかったな」



 どの魔導書も1日では絶対に読み切れないほど分厚い。これはぜひ貸出を願いたいところだ。


 スイスイと虚空を滑るように移動するショウは、ふとある本棚に目が留まった。

 数多くの魔導書が詰め込まれた背の高い本棚の一部だ。やたらと青い背表紙の魔導書が目立つそこは、どこか寒気すら感じさせた。近づけば真冬にも似た冷たい空気が肌を撫でる。



「おお……」



 魔導書の題名を確認して、ショウは感嘆の声を漏らす。


 その区画にある魔導書は、全て氷の魔法に関連するものだった。『簡単、氷の魔法【初級編】』や『魔法で作る氷薔薇』など扱う題材は多岐に渡る。

 氷の魔法で連想する相手と言えば、我らが問題児筆頭にして優しい魔女のユフィーリア・エイクトベルだ。彼女が得意とする魔法は氷の魔法で、今日も見本として氷の蝶を生み出していた。


 氷の魔法を記してあるからか、本からも冷気が漏れ出ているように見える。記された魔法によって周辺にも変化を及ぼすのだろうか。



「魔導書とは面白いな。――ん?」



 魔導書の題名を眺めていると、興味深い題名の魔導書を見つけた。


 題名は『氷の魔法を使い続けたらどうなる?』というもの。

 そう言えば、ユフィーリアは氷の魔法を使い続けていたせいで強めの冷え性を引き起こしたと言っていたか。普段は煙管キセルを吸うことで平熱に戻していると言っていたが、あれはどういう仕組みになるのだろう?


 ショウはその魔導書を手に取り、ヒヤリとした温度を纏う表紙を撫でる。それから立派な装丁の魔導書を開いた。



冷感体質カルマ・フリーゼ……」



 魔導書に記された副題は、そんなものが掲げられていた。


 この魔導書曰く、氷の魔法は昔から使いすぎることを良しとされていなかった。それはこの『冷感体質カルマ・フリーゼ』という副作用を引き起こしてしまうからとされている。

 冷感体質とは長きに渡って氷の魔法を使いすぎたことによる慢性的な病気のようなもので、身体の中に流れる魔力が氷の魔法の冷たさに慣れてしまい、魔法を使わずとも冷気が身体の中に蓄積されていってしまう体質だ。この冷気を逃すには、冷気を吸い上げて放出するという作業を日常的に繰り返さなければならない。


 それがあの煙管の役目だ。次の頁には雪の結晶が刻まれた煙管の設計図のようなものが記載され、煙管が持つ役割も解説されていた。



「これで身体に蓄積した冷気を吸い上げて……なるほど、そんなことをしていたのか……」



 ユフィーリアが日常的に煙管を咥えているのは、氷の魔法を使いすぎたことによって身体の中に蓄積された冷気を吸い出しているのか。あれは娯楽目的ではなく、そうしなければいけない理由があったのだ。


 冷感体質とそれを解消する為の煙管の仕組みについて読み込んでいたショウだが、あまりに集中しすぎて彼の存在に気がつかなかった。

 その声は、足元から投げかけられる。



「本を読みふけるのはいいことだが、浮遊魔法を行使したままでは危険だ。読書をするのであれば、せめて床に下りなさい」


「わッ!?」



 唐突に聞こえてきた声に床へ降りることを促されたショウは、読んでいた魔導書を手から滑り落としてしまう。


 宙を舞う魔導書。慌てて手を伸ばすも、すでに指先すら触れない場所まで行ってしまった。

 だが、床に叩きつけられるより先に、魔導書は誰かが使った魔法によって空中で動きを止める。



「え」



 ピタリと虚空で止まった魔導書は、動画を逆再生するかの如くショウの手元にスッポリと収まる。落下した事実などなかったことのようだ。


 ショウは魔導書のどこにも傷がないことを確かめてから、そっと元あった場所に戻した。

 冷たい背表紙が並ぶ魔導書の棚を見つめ、そっと安堵の息を漏らす。これで魔導書を破損して弁償ということになったら、今度こそユフィーリアに迷惑をかけてしまうかもしれなかった。危ないところだった。


 魔導書を危機的状況から救ってくれた人物を探すと、相手は赤い絨毯が敷かれた床に立っていた。

 ――あの忌々しい髑髏仮面どくろかめんを装着した、陰気臭そうな神父が。



「あ」



 相手を認識すると、ショウは思わず顔をしかめてしまう。


 昨日ユフィーリアに優しくされていた髑髏仮面どくろかめんの神父である。ショウにとっては忌々しい敵だ。

 そんな奴に助けられたとなれば、この上ない屈辱である。敵視している人物に助けられるなんて情けない。


 しかし、助けて貰ったことは事実なので礼を言わねば気が済まない。



「……危ないところを助けていただき、ありがとうございます」


「大したことではない」



 浮遊魔法の使用を中止し、床に降り立ったショウは髑髏仮面どくろかめんの神父に礼を述べる。恩人を相手に物理的な上から目線で感謝の言葉を述べるほど、ショウは礼儀知らずではないのだ。


 謙遜する態度を見せる神父の手には、昨日とは別の魔導書が握られていた。

 かろうじて確認できた題名は『交信魔法の全て〜誰にでも出来る交信魔法を徹底解説〜』とあった。召喚魔法からやり方を変えたのだろうか。


 神父の持つ魔導書に興味が出てきたショウだが、相手から「君は」と話しかけられて我に返る。



「はい」


「君は、見かけない顔だな。制服を身につけていないので、ヴァラール魔法学院の新入生という訳ではあるまい?」


「用務員です。一昨日、異世界から召喚されまして」


「ほう?」



 髑髏仮面どくろかめんの神父の反応が変わる。



「それは一体どのような?」


「え、えーと……トウキョウという異世界です。ご存知ないかと思いますが」


「いいや知っている。私もトウキョウからやってきた異世界人だからね」


「え」



 ショウは驚きが隠せなかった。


 異世界から召喚された人間は、ショウただ一人だけだと思っていたのだ。現にユフィーリアが成功させた異世界召喚魔法は空想上の魔法とされ、この世界では誰も成功できる訳がない魔法だと言われている。

 それなのに、この髑髏仮面の神父もトウキョウからやってきたのか?



「とはいえ、私もこの世界に根付いて随分と長い。もう私の知っている世界ではないと思うがね」


「貴方はどうしてこの世界に?」


「なに、よくあることさ。仕事帰りに交通事故に遭い、若い身で死んだ私を憐れんだ神様とやらがこの世界に転移させたのだ」


「…………本当にそんな展開があるんですね」



 元の世界では、掃いて捨てるほど使われた創作小説の設定である。まさか現実で起こるとは思わなかったが。



「ところが私を転移させた神様は、行き先までは考慮していなかったらしい。私は冥府に飛ばされ、今は冥王の補佐官として勤務している」


「大変でしたね」


「慣れれば仕事も楽しいものだ。――だが、一つだけ未練があってね」



 やれやれと髑髏仮面どくろかめんの神父は肩を竦めると、



「元の世界に幼い息子を置き去りにしてしまったのだ。せめて彼には、父は異世界で元気に暮らしていることを知らせたいと思ってね」


「……混乱されるのでは?」


「そうだろうか?」


「はい、絶対に」



 ショウが真剣な表情で頷けば、髑髏仮面の神父は非常に残念そうな口振りで「そうか……」と呟く。



「ならば諦めよう。息子を混乱させてしまうのは忍びない」



 交信魔法が記載された魔導書を手にした神父は、ガックリと肩を落として踵を返す。



「あの」


「何だね?」


「探せばいい方法はいくらでもあると思います」



 幼い息子を残して元の世界から離脱してしまうのは、とても辛いことだと思う。ショウも4歳の時に父親が行方不明になっているので、元の世界に残された彼の息子の気持ちが分かるかもしれない。

 ここで突き放してしまうのも可哀想だ。確かに彼は嫉妬の対象になるが、それでも望むことを邪魔するのは許されない。


 この世界には、まだショウの知らない魔法がある。だから、おそらく彼の知らない魔法もたくさんあるはずだ。



「ユフィーリアなら……主任なら知っていると思います。相談してみては?」


「……なるほど、魔法の天才と言わしめた彼女であれば何か知っているかもしれないな」



 髑髏仮面どくろかめんの神父は少し考えてから、



「ありがとう。今度、手土産を持って用務員室にお邪魔させてもらうとしよう」


「はい、お待ちしています」



 髑髏仮面の神父はショウに会釈をし、どこかに歩き去っていった。


 彼が息子と出会えればいい、とショウは密かに願う。

 あの神父はそれを強く望んでいる。嫉妬している場合ではないと思うのだ。



「そうだ、浮遊魔法の練習……」



 今日の自分の目的を思い出したショウは、もう1度浮遊魔法で空を飛ぼうと試みる。


 ユフィーリアから教えてもらった通りに床から浮かび上がる想像をすれば、すぐにふわりと重力に逆らって身体が空中に浮かぶ。

 問題なく浮遊魔法を発動させ、さて本棚を巡る旅の続きをしようとした瞬間だ。



「あんのクソ爽やか暴君野郎がァァ――――ッ!!」



 魔導書図書館全体を揺るがすほどの大絶叫。


 その声の主は、遠くでショウが浮遊魔法の練習を終わらせて帰ってくるのを待つ銀髪碧眼の魔女だ。クソ爽やか暴君野郎とは、また随分な罵倒である。

 とはいえ、相手は理解している。この魔法学院を牛耳る魔法使い、グローリア・イーストエンドのことだろう。彼に何かされたか。


 浮遊魔法でふよふよと空中を漂うショウは、



「戻ろう」



 学院長と揉め事を起こしているのであれば、ユフィーリアの味方につかなければならない。自分は用務員であり、問題児の1人なのだから。


 虚空を蹴飛ばして本棚の1番上と同じぐらいに浮上したショウは、空中を自在に泳いでユフィーリアの待つ場所まで戻ることにする。

 その先で待ち受けている光景は、何となく予想がついていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ