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虎落笛ゆらりゆられる枯れ柳

作者: 都槻 郁稀

 冷蔵庫が黙る。静寂に飲み込まれた部屋に、時間が流れる。部屋の主はゆらりゆらりと身体を揺らし、ただ時が過ぎるのを待っていた。日が沈み、月が昇る。揺れる大気を掻い潜り、細い光がゆらり揺れる。


 パソコンが黙る。時計の針が進む。壁が音を飲み込み、空気と何かが部屋を満たす。風が窓を叩く。雨が壁を殴る。


 隣室が黙る。空気を揺らす洋楽は止まり、静寂が支配を取り戻す。月は高く昇り、雪の積もる音が街を満たす。


 冷蔵庫が唸る。目覚まし時計が鋭く叫び、しばらくして黙った。歩けないほど積もった雪が陽を受けて光る。表面をじっくりと溶かし、半分空いたカーテンから部屋を照らした。新聞がポストを鳴らす。鴉が飛び立つ。ドアが閉まる音が響く。しばらくして、もう一つ。それからすぐに、二つ。ザクザクザク、と雪の積もった路が鳴く。クラクションが響く。エンジンが唸る。太陽が南の低いところを通って西に傾く。ドアホンが一回鳴る。モニターに制服姿の男が映る。抱えた箱を見て、さらに戸を叩く。音は部屋を通り抜け、半分空いた掃き出し窓とバルコニーから外に逃げる。空が燃え、ビルの影が地を這う。世界の輪郭が曖昧になる。昼と夜が混ざり合う。天使と悪魔が微笑む。昏く黙る天幕を、微かな明かりが穿つ。


 ドアホンが二回鳴る。スーツ姿の男が映る。明滅する蛍光灯と夜に抗う街明かりを背にドアスコープを見据える。部屋の借主を二度呼び、ドアを強く叩く。


 街が夜に沈む。少し欠けた月が昇る。何万年も虚空を走った光が街に降る。風のない、静かな夜。


 部屋の主は動かない。朝が来ても、時計が叫んでも、鍵が外から開けられても。


 もう、動かない。その瞳も、指先も、心臓も。

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