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白と黒の望む大空  作者: 雷桜 李桜惡
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白と黒の望む大空 始ノ大空〜白と黒の兄弟編〜

 ━━━ プロローグ ━━


 地獄、そう形容できる場所にそれはいた。大空は幾層もの闇に覆われ、大地はところどころ裂けて奈落が顔を覗き、炎がいたるところで燃え盛っていた。

 そんな場所にいるそれは、おおよそ人と呼べるような代物ではなかった。巨大で人の数十倍もあるそいつは禍々しいとも神々しいともとれるその佇まいをし、白銀の魔王と呼ばれようと、純白の神と呼ばれようとそれを知らぬものは信じてしまうことだろう、そいつはそれだけただならぬものを感じさせる。

 そんなものに臆さず数人の男女があたりを囲う炎によって生まれた闇から次々と現れ、神か魔か(どちらでもない可能性もあるが)、いずれにせよ強大な存在であろう事が伺えるそれの眼前に傲慢にも集い相対する。


? 「今までのやつとはわけが違う…と。」

? 「とはいえ、やるしかないっスね。」


 誰よりも先に沈黙を破って口を開いたのは所々跳ねた髪の毛に後ろで縛った髪の毛、目の下にはうっすらとクマ、髪をぼりぼりとかき、気怠そうにしつつもぼさぼさの髪の間から凛とした目を覗かせ前を見据える女性と、小柄な体躯に健康な褐色肌、多少露出は多いが機動力に優れた衣装にショートカットの髪型、身体は小さいが元気一杯とは正にこのこと、と体現したかのような女の子。

 そんな2人が自身の武器に触れようとしたその時だった。周囲の空気がビリビリと震え、辺りの炎が掻き消える。強大な白いそれが吠えたのだ。だが、厳密にいうと吠えたわけではない、ただ全身に力を込めたのだけは見て分かった、ただそれだけなのだ。しかし、その場にいた全員が声ならぬ声を聴いていた。

 次の瞬間には全員が各々の武器を構えていた。どの武器も武器としては見事の一言、だれが見ても一級品だと分かる物ばかりだ。しかし、驚くべきはそこではないだろう、そこにいる人物だけで十二人、つまり最低でも十二以上はこの場に武器があり、それらすべての武器が例にもれずその存在にのみ向けられているということだ。それだけの強さを誇るその存在の力は計り知れない。


? 「圧巻ね。」


 ふわふわとした長めの銀髪を右手に弓を持ちつつかきあげ、左手に腰から取り出したナイフを逆手に持った女性が一言零すと、大剣を右手のみでもち、軽鎧を身にまとった青年が頷きつつ続ける。


? 「本当に圧倒されそうだ。」


 そんなやり取りを見兼ねたのか筋骨隆々の体躯にスキンヘッドと厳ついにも程がある見た目の男が吠える。


? 「準備ならいつでもいいぜぇ!!」

? 「いつでもいけます!」


 そんな男に負けないくらいの声で大鎌を構えた黒髪ロングヘアの女性が気合十分に続く。


? 「全く、うるさい人達だね。」

? 「ほんとうにしょうもないお喋り共ですわね!相手方はもう待ちくたびれているみたいですわよ。」


 青いショートヘアの少年が左手に持った本のページをペラペラと捲りつつため息をつくと、先端に棘の鉄球がいつた杖を持った聖職者の格好をした女性が周りを一喝する。


? 「…構えて、くる。」

 そんなやり取りを気にもせず、自身の身長程長さのある刀を構えたのは白い、否、目の前のそれと匹敵するほどに純白でふくらはぎまでのばされた長髪と透き通った白い肌を持つ中性的な顔立ちの人物。

 その人物が己の武器を構えた正にその瞬間だった、白いそいつは口を開けた。今度こそ本物の咆哮、というわけではない。口腔から光が漏れ出し始め、それは数秒のうちに吐き出された。

 しかし、その吐き出された光より早く、それを読んでいたかのように十三人いるうちの三人が動く。


? 「下がって!」


 そう指示を出したのは1人の青年。青年は体躯こそ普通なうえ、やや細腕だが、それに釣り合わぬ大きな槌を背負い、その背よりも広く大きい盾を構え白いそいつの前に勇敢にも立ちはだかった。


 さらにその青年の脇から素早く飛び出した影が二つ、そのうち凄まじい速さで敵の足元まで間合いを詰めたのは最初に刀を構えた純白の髪の人物だ。しかし、それも一瞬、気付けば強大な存在は足に無数の切り傷を付けられ少しだけ体制を崩し吐き出された光が下に向いた。先ほどの盾を構えた青年は吐き出された光そのものではなく、地面にむけられた吐き出された光のその余波を余さず受け止めていく。


? 「援護致します!」


 仲間を護るべく攻撃を1人で受止めた男の背後につき、なにやら言葉を呟き始めたのは金髪ショートに何故かメイド服の女性。すると、メイド服の女性の意思に呼応するかのように男の周りが煌めきはじめ、攻撃を受け続けているにもかかわらず傷が増えるどころか減り始める。しかし、攻撃はそれで終わらず、巨大な腕が二人を襲わんと勢いよく伸びる。


  ヒュヒュッ!!


 仲間を護る為単身立ち塞がった男とそれを援護する女性の横を背後に立った銀髪の女性が鋭い攻撃を放った。しかし、銀髪の女性の狙いは二人ではない、その横を風が凪いで放たれたのは不思議な力によって作り出された灰色の矢。正確な二本の矢は二人を襲わんとする巨大な右腕を正確に撃ち抜き、攻撃を中断させる。

 しかし、それで攻撃を止めるほど相手も弱くはない。怯むことなく先程狙った二人に加え、弓を放った女性ごと踏み潰すべく足を下ろしてきたのだ。だが、三人を踏み潰すより早く青髪の少年による技で地面から強大な存在の振り下ろされた足ごと瞬間的に氷結させ、大きな氷山が出現し攻撃を止める。


? 「「同時に!」いきますわ!」


 巨大な存在が足を止められた隙を逃さず、聖職者の格好をした女性と大鎌を構えた女性が同時に一撃を加えるべく跳躍する。大きく振りかぶった杖の強打にエネルギーの刃を形成し通常でもかなり大きな大鎌をより大きく強力にした斬撃が巨大な存在の胸へ確かな一撃としてそれぞれ与えられる。振るわれた物は違えど強力な二撃は巨大な存在を揺らがせるがそれでも巨大な存在は倒れない。倒れるとはいかない。


? 「〜♪〜♩♬」


 そこへ綺麗な歌声が響き渡る。歌っているのはスキンヘッドの男だ。無論、巨大な存在相手に心が折れ、おかしくなってしまった訳では無く、味方の為に歌われた歌は不思議な力によって意志を持っているかの如く、光となって味方全体に纏われていく。


? 「もう一つオマケッスよ!」


 褐色肌の女性がここぞとばかりに声を上げ、今度は味方全体ではなく、影より鋭い一撃を入れるべく機会を伺っていた存在へと光が集中する。


? 「…ぉぉっ!!!」


 気合いと共に跳躍、褐色肌の女性によってもたらされた奇跡はその存在の速さを引き出し、初めに足へと攻撃をした純白の人物ほどの速さはないがそれでも十分な速力をもって強大な存在の死角から攻撃を加えるべく飛び出す。腰には二本の刀、背には一本の片手剣、脇にはナイフ、武装は誰よりもしているが着ている服は身軽さと強襲を重視した黒い軽装備、だが、その武器 のどれも使わず、まずは一発とこぶしを握る。不思議な力で雷が纏われ、そのまま振るうると強大な存在へと吸い込まれるようにして強打した。かのように思えたが、自身を何か白い光が覆いついには飲み込まれていった。


? 「……っ!?」


 目を開ければそこはいつもと変わらぬ何事もない日常。もうすぐ闇が空を覆い、遠くのほうでは日が沈み太陽の光だけがうっすらと輝いている夕暮れ時、━━━は人に気配のない湖に架けられた桟橋の先で座っていた。月日は9月20日、残暑はまだまだ厳しい日々が続くものの、ここは不思議と暑さを感じさせない。

 桟橋は湖の端から端までつながっていたであろうことは窺えるが、今では湖の半分ほどまでしかなく、どこの誰が直したのかも分からぬが、先端は補修され、ささくれの一つもない。橋の目の前には、波一つないきれいな水面とそこに映る大空がただ広がるばかりだ。

 ━━━はいつもここに来ていた。理由は先ほどの夢だ。夢といっていいのかは分からないが、この場所に来るといつもあの映像が頭に浮かび、鮮明に再生されるのだ、まるでその場にいるかのように。


━ 「今日も進展なし…か。」


 そう、いつもあそこなのだ。いつも自らが握った拳を振るい、当たったか当たらないかギリギリのところで、必ずその先を見れることなく意識が戻されるのだ。はじめはただの疲れだろうと思い込んでいたのだが、この場所に来るたびに全く同じことが起き、まったく同じところで意識が戻される。この場に人気は全くなく、足元は補正されていることもなければ明かりもない。しかし、いくら人気がない薄暗い場所であったとして、━━━がこの場に足を運ぶには十分すぎる理由であった。


━ (思い出すだけで胸が昂る…。私はあの場に立ってみたい。)


 多くの人が子供の頃に抱くであろう冒険心。人はそれをアニメや映画、更に言えばゲームというアニメや映画に含まれる音、映像に加えられた操作という体験、これらの芸術品によって刺激されてきた。

 日常ではない、非日常への好奇心、それが今━━━には確かに存在している。しかし、その映像を見たところで、その先を見られないのであれば、その先を体験出来ないのではあれば、異常な程の想像力が生み出した幻でしかない。

 そこまで自らの思考が回ったところで━━━はため息1つ、現実へと目を移す。もう太陽は沈みきっていた。かなりの時間ここにいてしまったと、━━━は名残惜しく湖を見つめつつも心に決める。


━ (今日はもう帰ろう。)


 そう思い立ち上がったその時だった。突如背に力が加わった気がして驚き振り返った。しかし、その正体が見えることなく、変わりに見えたのは輝く月のみ。それが自らの真上に存在していたものと認識するころには、背後の湖に映る月が近づいていた。が、そんなことを今頃知ったところでどうしようもなく、なす術もなく湖に背中から落ちる。


━ (…苦しい)


 何が起こったのかすら分からずパニックになって対処が遅れたことが災いし、身体中に力が入らず、動かない。

 ━━━はそのまま月が遠ざかっていくのをただ何も出来ずに意識が落ちていった。

 身体が月の光に飲まれるような感覚がしたのを最後に。







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