一人目
ここは、はじまりの村。この物語の主人公となる若者が訪れる、と言うより運び込まれるはじまりの場所。わしは、このはじまりの村の村長じゃ。それ以下でもそれ以上でも、それ以外でも無い。
主人公の若者は、この村へ運び込まれて目を覚ましここを出た後、魔物が生息する道中様々な町や街に幾難を越えて、魔物の王様とされる魔王を退治してめでたしめでたし、という物語じゃ。タイトルはなんじゃったかのう。忘れてしもうたが、そんな物語じゃ。
何処へ行くかとな?散歩じゃよ。わしが散歩をしていないと、主人公は見つけられずに、彼等の物語は進まんからの。見つかるまで、わしは町へは帰らん。と、一人でぶつぶつ言っている間に、ほれ見つけたぞ。
「おい、お前さん大丈夫か」
「…」
「気を失っているようじゃ。一先ず、村へ運んでやろう」
さあ、村へ戻ろうかの。ん、彼を放って置くのかって?安心せい。わしが話しかければ、画面が切り替わって勝手に村へ運ばれる。目覚めた時はベッドの上、そうなっておるんじゃ。さあ、あとはあの主人公が目を覚まして、村から出ていくのを見届けるだけじゃ。
「おや、目を覚ましたようじゃの。何、自分のことを覚えておらんとな?それならば、となりの町へ行ってみると良い。お主の事を、知っているものが居るかもしれぬ。村の外には魔物が出るからの、村で装備を整えて行くと良い」
どうじゃ、手馴れたものじゃろう。一言一句、一噛みもしていないぞ。あの主人公が村から出て行くのを見届けた後、また散歩に出るんじゃ。次の主人公を、探しにの。何せ、主人公は沢山居る。見つけても見つけても、限りは見えぬ。しかしわしが見つけてやらんと、主人公は主人公として物語を進められん。わしが見つけてやらんとな。今のは、丁寧な主人公じゃったの。どういうことかとな?まあ、見ていればわかる。ほれ、次の主人公を探しに行こうかの。