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イヌたちがイノシシを追い立てる。槍を持った男たちが一緒にイノシシを追いかけていた。その中にはそらもいる。私は息を整え集中し、矢を引き絞った。私の弓は他の人より一回り大きい。その分弓を引くのに力がいるけど、威力はけた違いだ。イノシシの動き、そして人の動きを読んで矢を放つ。
矢が手を離れた瞬間の、空気を切り裂くような音が私は好きだ。矢は吸い込まれるようにイノシシに向かって飛んでいき、首元に刺さった。苦しそうなイノシシの鳴き声がし、一瞬動きが止まる。その隙に男たちは矢や槍をイノシシに撃ち込みしとめた。男たちが満足そうにイノシシを縛るのを見て、私は息を吐く。
(よかった、誰も怪我をしてない)
狩は命がかかっている。イノシシやシカが狩れなければ、ムラの人の命がなくなる。そして狩に失敗すれば、私たちの命がなくなる。獣に足を裂かれただけで、命を落とすこともある。私は腰につけている籠に手を添えた。怪我をした時に使えるように、いつも怪我や毒に効く草や葉を入れている。
(今日も、狩が無事に終わりますように)
この後、私の願いが通じたのか、無事シカを二匹狩ってムラへと戻ることになった。だけどこの日を境に、私の生き方は大きく変わることになる。
ムラに近づくとなんだか騒がしかった。ムラの中心に人だかりができていて、私とそらは顔を見合わせ、獲物を放って駆け寄る。狩のまとめ役の男が、人の隙間から見えた倒れた女が見えた瞬間、血相を変えて人をかき分けていった。
「母さん!? おい! 何があった!」
男は母親の周りにいる女たちに必死の形相で詰め寄るけど、皆おびえて首を横に振るだけだ。私は不安そうな顔のそらを置いて、人だかりを縫うように進んでいく。ちらりと見えた青白い顔、小刻みに震える手足、紫色の唇。
(あれ、キノコの毒だ)
海から来た男の人が教えてくれた。よく食べるキノコに似た、毒をもつキノコがあるって。しかもその毒はすぐに出てこない。人によっては出てこないこともある。でも、もし倒れたら、死ぬことが多い。
「あのっ……!」
私が母親を抱きかかえて揺さぶっている男に声をかけようとした時、横から強く腕を掴まれた。驚いて視線を向けたら父親で、血走った目を私に向けていた。ぞわって、嫌なものが胸の奥底から湧き出てきて、気持ちが悪くなる。
(……私が言っても、たぶん聞いてもらえない)
ここにいる人の誰も、私に助けなんて求めてない。お前は消えた存在でいろって、言われた気がした。
(助けられるのに……)
悔しい。だけど足がすくむ。周りの人の目が怖くて。父親の目が、怖くて……。女の人の痙攣は激しくなってきて、早く毒を消さないと手遅れになる。なのに、私は動けない。私が唇を強く噛みしめた時、反対の腕が優しく掴まれた。そしてぐいっと引っ張られる。
「姉さん」
父親の手が離れ、私の目の前には心配そうなそらの顔があった。
「痛かった? 大丈夫?」
「ううん。平気……けど、あの人」
「……助けられるの?」
そらは、あの男の人の世話を手伝ってくれた。一人でいいって言ったのに、心配だからって。だから私が草に詳しいことを知っているし、何度が具合が悪くなったそらを草を使って直したこともある。
私はそらを見つめ返し、小さく頷いた。だけど、助けられるのと、助けさせてもらえるのとの間には溝がある。私が動けないでいると、ぐいっと前に引っ張られた。いつの間にかそらが前に出ていて、人の輪から抜け出た私に冷たい視線が刺さる。
(さっきより痙攣が激しいし、呼吸が荒い……危ない)
母親を抱きかかえる男は、私を見て目を見開くと何かに気づいたように腰の籠に視線を落とした。一緒に狩に行く人たちは、この籠の中に怪しい葉や草が入っていることを知っている。擦り傷や切り傷につけてあげたこともあるからだ。
(やるしか……ない!)
私は深く息を吸うと、女の人の足元に転がっている石の上にキノコ毒に効く葉を1枚置く。この女の人はドングリをすりつぶしていたらしく、その石を使わせてもらった。ざらざらとした石で葉をすりつぶし、椀に入っていた水に溶かす。周りはいきなり私が何かを始めたのでざわざわとうるさい。父親が動くよりも前に、私は葉を混ぜた水を女の人に飲ませた。
(後は、安静にしていれば……っ!)
少し気を抜いた瞬間、私は髪を引っ張られて後ろに倒れた。
「姉さん!?」
「この流れされ子が! 何を飲ませた! それは毒のある葉じゃろう!」
祈りをするおばあさんの鋭い声が聞こえると同時に、木の杖で頭を殴られた。目の前が真っ白になって、じわりと温かいものが耳の横を流れていく。
「姉さん!」
私に駆け寄ったそらの顔はぼやけていて、遠ざかっていく声に、私を罵るものが混ざる。そして意識を失う直前に聞こえた言葉は、「殺せ」。私の意識は真っ黒な闇へと落ちていった。




