第十七編
第十七編 かって私の心には
かって私の心には夢の王国があってその王国には永遠の春が君臨していたのだった。
私たちは何の迷いもなく春の夕暮れを家路に着いた。
だがいつのことだろう?
その王国に冬の魔が迫ってきたのは。
うららかな陽はあわただしく没し去り
木々の葉は、瞬く間に黄変した。
初めての秋はいささかの実りももたらさず、
そのまま。足早に荒涼とした冬へと転じた。
吹雪が続き寒気は心まで凍らせたのだった。
もはや再び春が来ることはあるまい。
誰しもそう思い、冷え切った心で不毛な
長いときにひたすら耐えるしかなかった。
絶望と苛立ちが私達の胸を刺し通し、
おもぐるしい鉛色の空が未来を暗示していた。
私は一人、雪深い山小屋に閉じこもり
ひたすら、瞑想の時を過ごすしかなかった。
私の心は遠い彼方をさまよっていた。
そう、おぼろげな予感と共に。
だが、私は長い瞑想に疲れ果て、雪の戸を押し開けて戸外に出た。
そこには白い平原が銀波を輝かせて何処までも続いていた。
そして地平の彼方から、今しも
永遠に変わらぬ太陽が静に昇ってくるのであった。
古代を照らしたままに光り輝く太陽。
それだけが普遍だった、変わらぬ光をふりそそいでいるのだった。
恐らく人の運命もそうなのであろうか?
ある日、突然死が来て、宣告するように。
「さあ、おまえの死の時が来たよ。
すぐ準備するんだ。お前の寿命はいまつきたんだから」と。
そのように永遠の春は失われるしかなかったのだろう。
そして今は冬が支配権を行使するしかないのであろう。
やがて、全てが清算されて、大いなる転化がくるときがくるまで。
造化の神が支配権をその手にゆだねるまで。