第六編〜第八編
第六編 知恵
わたしはありとあらゆる書物をむさぼるように読みふけったものだった。
神の口から発せられる言葉からは遠い古典籍にうずもれて
おそらくは汚屑のような禁書や堕落したようなものまで。
しかしそんななかでも、私はいつも信じていたのだった。
一切は神のもとで許されているからこそこうして
存在しえているのだということを。
人間の知など、なにほどのものでもありはしまい。
かえって、私達から謙虚さを奪い、しかるべき運命の前で
いたずら尊大にさせるだけでしかあるまい。
もし人が知をえてもなお、素朴なる心を失わないとしたらなんと言う奇跡だろうか。
ある神秘な声が私達を軽く促して
子供の純真に帰ることを教えなかったら。
第七編 永遠への憧憬
一切から見放されて貶められた時、
私たちは一体何処に安らぎを求めたらいいのか?
しかも、日々の義務は私達を駆って世の営みを強制する。
いよいよ、冷たくなる空からは
果てしもなく氷雨がふりそそぐ。
私たちはまるで破門された堕落僧のようにさすらい歩くしかない。
枯れ果てた野には寒風がよぎり
時はいたずらにうしなわれていくばかり、
命の残りは更に短く心は深く傷つけられた。
永遠にあこがれるものはついには、
その永遠によって打ち負かされるしかないのだろうか?
運命に屈して、あてない夢をつむぐしかないのだろうか?
第八編 無限
私は信じない。
神々の悦楽がなぜ人間によって踏みにじられるのかを。
悲運に打ちのめされた私達が更に、人間のやからによって
引き裂き、粉々にけちらかされなければならないのかを。
人間の運命は何たる悲惨さに彩られていることか。
自然がいかに私達を慰めようとも
人間の劣悪な不完全性が存在する以上
私達の心が憤怒を収めることなどできはすまい。
単なる獣類の友たる人間のやから。
たとえ、私達が現存界に顔背けても、
暗い運命は私達ののどうでもいいような
些細な過誤を捉えてあまりにも過酷な試練を下すのだから。
だから、この小さな争いの場にとどまることなど出来はしない。
生は親しげに寄ってきて水のように戯れるが
やがて、内面への希求が勝って
生活は無限の中心へと私達をかりたてるだろうから。