第一編〜第二編
第一編 森林からの逃避
森の谷から、私は人々の住む町へ帰ってきた。
森は何を私に教えてくれただろうか
熊笹の生い茂る人跡の絶えた小道を
私は恐怖に駆られながら一人たどったのだ。
人の気配は全くなく,只、風が木々になるだけだった。
沢の水音と熊の足跡と、私は森の幽冥を恐れたのだ。
そして、遠くに物の怪の影を見て戦いた。
だがそれは近づいてみれば只の木の根にすぎなかった。
恐れを抱くのは愚かなことだ。
そのときが来たら戦えばよい。
自然だってその通りに身構えているのだから。
豊かな自然をむしろ恐れることだ。
自然は二つの意味で統合しているのだろう。
だが、私はそれを見抜くことも出来ずに
再び、大都会の喧騒の中に
好みの居場所を見出して森林を忘れたのだった。
第二編 生の放物線
私たちは書物を読み漁りそこから知識を得ている。
だが無知であった幼児の方がより、豊かではなかったのか?
粗野な習慣に曇ってはいても、
かっての時はこの乏しさとは無縁であったはずだ。
どこからこの乏しさを手に入れたのだろうか。
深く考えることをやめて陽気に騒いで人々と交わり
社会での勤めを果たすことが人間の取り分であることは
私の慰めであり、責務であることはわきまえている。
だがそこには永遠は見出せない。
神の饗応であるエーテルの澄み渡った蒼穹も見出せない。
だからこそ人は手馴れた鋤や鍬を撃ち捨てて
遥かな憧憬の国に瞑想をはせるのであろう。
しかし、我等はこの世を離れてどこに生きながらえられようか。
心は果てしもなく、天上の国々にあこがれながら
この浮世の肉体舟は、来る日も来る日も泥の中の
タニシをついばみ続けるしかないのだ。