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匂い  作者: 原田 朱里
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浴場にはまだ人はいないようだった。脱衣所でさっと浴衣を脱いで早速入る。初めは屋内でしっかりと体を温めていたが額に少し汗をかきはじめたタイミングで露天風呂に出る。


屋外に出ると少し湿っぽい匂いがした。それと同時に肌をさらう風にも当たった。昼間の晴れ渡った様子とはまるで風も匂いも違う。夕方から降り始めた雨はじっとりとその場に残り続け、パラパラという雨の音と、この肌をさらう風を生み出していた。



しかし、そんな湿っぽい匂いも少し心地よい気がする。同じ湿っぽさでも清々しさが格段に違うのだ。


初めて東京に住んだ日も雨であった。講義が始まる4月に合わせて入居をした。大学から徒歩10分圏内に構えた初めての城とは雨の日に出会うことになったのである。


あの頃は、どんよりとした湿っぽさはあまり気にならなかった。今思えば、湿っぽさよりもこれからの生活への高揚感の方が強かったのであろう。初めての城で初めての東京生活である。気分が高まらない者はいないであろう。


そんなこんなで始まった東京の生活だが、そのどんよりとした湿っぽさで遂に耐えられなくなった。


大学1年の夏、初めての東京の匂いに違和感を感じた。まずは歓楽街である。街はごみで溢れていた。東京でそんなことはないと思っていた。東京は日本で一番の都市であり、東京ではもちろんごみの収集が決められた通りに行われていた。しかし、街にごみが溢れているのである。なぜ路上にごみが置かれているのか考えたことがある。しかし、ごみはルール通り回収されるからお店などにとっては街にごみを捨てる理由はない。

理由は簡単であった。道行く人がごみを溢れさせているのである。


その様子を目撃したときは驚いた。男も女もごみ箱がない路上において平気そうに持っていたごみを捨てるのである。平気そうにと書いたのは平気なのか理解出来なかったからである。本人にとっては罪悪感で溢れていたのかもしれない。何かが彼らにそのように行動させてしまっているのかもしれない。しかし、現実には彼らは街にごみを捨てるのであり、それにより街はいつもごみの匂いが染み付いていた。


東京の人はなぜかそのような歓楽街でも酒をのみ、酔い、吐いた。このような場所に居続けられる理由は分からないし知りたくもなかったが、東京の人は我慢強いのかも知れない。そう思うと自分が少し我慢が出来ない子供同然のような気持ちにさいなわれ、自分も歓楽街の匂いには我慢しようと決めた。

そして僕は歓楽街の匂いに馴染むためにもアルバイトを始めた。

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