08
ボーっとヂヂを見つめているユキの肩がトントンと叩かれる。
「高木さん、見つめすぎると魅了されるよ」
ユキはハッとして目を逸らす。
「フフッ、そう明冬の言う通りだよ。俺の異能は魅了なんだ」笑いながら肩をすくめる。
「変だよね、その異能さえ持っていれば美醜に関係無く相手を虜にできるんだから」
そうは言うが、充分ヂヂは魅力的に見えるが、この感覚も魅了の異能によるものなのかユキには判断がつかなかった。
「ヂヂさんの能力は強力だから、封印措置していても無意識に周囲に影響を及ぼしているんだ」
封印とは、政府がその異能を危険だと判断した時にとられる措置である。
人それぞれ所持する異能は違うが、まったく同じ異能が存在しないわけではない。
ヂヂの異能は魅了だが、他にも魅了の異能を所持する者も居る。だが、まったく同じでは無く、射程や同時に魅了できる人数など人によって変わってくる。魅了の強弱もあり、弱いものではただ単に人に与える好感度が高くなるだけや、魅了が強力なものになってくると、相手の意思など無視して異能者の命ずるまま操り人形にできる。
そこで封印措置だ。異能そのものが危険であったり、ランク青の異能者が措置の対象となってくる。
「凄い能力者さんなんですね。私なんて白色だから異能って憧れちゃうな」
ユキは胸に手をやり、ギュッと握り締める。
その様子を見て明冬は、ストレンジ・グルーヴでユキの記憶を覗いた時の事を思い出す。
明冬は知らなかったが、ユキは最近第一奥谷高校に転校してきたのだ。
以前の学校では、無能力者という事で虐めにあっていたのだ。
大昔では異能力者は少なく、小説やTVの中の空想上の存在だと思われていた。自分は異能者だと宣言する者などは頭のおかしい人だと思われたり、たまにTVで特番を組み『動物と話せる人』『透視能力で未解決事件を大捜査』など放送されていて、どこか胡散臭いイメージであった。
だが、次々と異能者が見つかったり名乗りでてくる。彼らは実在し能力は本物であることが公に認められていく。
異能者の存在が周知の事実となった社会では、異能を危険と感じる者も多く、異能者の人口も少なく社会的立場も弱かったことから異能者差別が社会問題になっていた。
近代になると無能力者と異能者の人口が逆転し、差別されていた側の異能者が無能力者を差別するようになっていた。
政府も個性を尊重し共生する社会に向け様々な動きを見せているが、この問題は根深く現代でも解消はされていない。
ユキは悲惨な虐めを受けていた。その記憶を覗き見た明冬。
明冬の凪の様に静まり返ったその心には、悲しみや苦しみの風が吹くことは無い。
(こんなだから、幸さんやエミリーさんに嫌われてしまってるんだよなぁ)
そう思い明冬は、心のなかで自傷的に笑う。
憧れると、自分は無能力者と言うユキの握り締めている手は微かに震えていた。それを見た明冬の胸は何故かチクリと感じた。この痛みとも痒みとも分からない僅かな感覚は、次第に薄れて溶けていった。