07
学校が終わり、約束通りストレンジ・グルーヴへ来たユキだったが、来て早々「じゃ、行こうか」と一息つく暇も無く明冬の言う『特殊な場所』へと向かう。
足を進めるなか、だんだんと回りの建物の様子も変わっていき、少し……いや、かなり不安を覚えていくユキ。
繁華街を抜け、いわゆる歓楽街に入って行く明冬に問わずに居られない。
「明冬君、ここって……」
「うん、大人のお店が多いよね」
正しい、明冬の言ってる事は正しいのだが、そうじゃ無いと思うユキ。
歓楽街でも、ここ周辺のエリアは、所謂LGBTタウンと言われるエリアだったのだ。
夕方で辺りはもうかすかに薄暗くなってきており、夜の気配が近づいてきている。
普段ではあまり見かけない、同性同士で腰に手を回しイチャイチャしてる様子を見て、カルチャーショックを受けるユキを余所に明冬はスタスタ歩いて行く。
「着いた。ここだよ」
着いた先は、一軒のナイトクラブ【Edens´Route】というお店だった。
明冬とユキは店の裏手に回り関係者入口へと向かう。
扉の前には、がっしりとした体格の男性が立っていた。
明冬が扉に近づくと、ザッと動きその巨体で入口を塞ぐ。
「何の御用でしょうか?」口調自体は丁寧だったが、その巨体から発せられる言葉には明らかに威圧を強く含んでいた。
ユキは、その圧に恐怖を感じて早くこの場所から去りたい衝動に駆られ数歩後ずさる。だが、明冬はどこ吹く風といった様子でニコリと笑う。同じ高校生なのに、こういう殺伐とした空気にも怯まない、場慣れしているような姿にユキには格好よく見えてドキリとした。
実際には何も感じてないのだ。喜びの声も怒りの声も明冬に情動は無い。
「ヂヂさんには連絡してたんだけど聞いてませんか?」
「それは失礼しました。ヂヂ様からは伺っております。二階応接室に居られます、お通り下さい」
話は通っているなら何故ああも敵意を剥き出しにし威圧してきたのか、明冬を良く思って無いようだ。
これから会うヂヂという人に会わせたく無いようだった。
明冬は、ここへ訪れた事があるようで応接室へと迷わずたどり着きノックをする。
「ヂヂさん、入りますよ」
部屋の中から「どうぞ」と返事があり二人は入室する。
「いらっしゃい、明冬。来てくれて嬉しいよ」
黒髪のツーブロックショートヘアで、太い黒縁眼鏡をかけている男性が一人居た。
彼は黒の革張りソファに深く腰掛け明冬達を迎え入れた。
「うん? そちらの可愛い子は誰なの?」
艶気を含んだ男性としては少し高い声が、右に黒子のある口元から発せられユキの耳を撫でる。
ひどく滑らかなで肉感的な声は耳から入り込み、頭の中を甘く蕩けさせるような錯覚をさせる。
気怠そうに目を伏せている。それさえもひどく色気を放っていた。