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ここは第一奥谷高校、昼休みを知らせるチャイムが鳴る。教室のドアを勢いよく開け放ち我先に食堂に走る生徒達や、カバンから弁当を出し友達と机をくっ付け談笑し始める者もいる。
そんな中、明冬の机に近づいてくる者がいた。名前を水無月 秋穂という。秋穂は明冬の従妹であり、叔父の娘だ。
長く綺麗な黒髪、目は大きいが、つり気味で意思の強さを感じる。唇は桜の花のように淡くピンク色に染まっている。
「明冬、ちゃんとした物食べないとダメだよ、そんな物だと精はつかないよ」と明冬の手に握られている大豆バーに指をさしている。
「いいよ別に、これだと手軽に食べれるから好きなんだ」と明冬は返すが、秋穂は聞く耳持たずといった感じで弁当箱を差し出してきた。
「ダメ、これ明冬にも作ってきたからコッチ食べなさい」
「ありがとう、でも大変だろ? そんなに気を使わなくて良いから。だって学校が終わっても、シードに行かなくちゃいけないし、シード終わっても家で家庭教師が待ってるし」
シードとは政府が設立した機関であり、そこに所属する者は未成年の男女である。
将来、異能を生かし警察や自衛官になり活躍するために異能の強化や格闘訓練、法的な知識等を身に着ける養成の場所だ。
年に一度、試験がありそれをクリアすると所属できるが、試験内容は難しく合格率も低い。簡単には入れず、エリートを育成する機関である。
強い異能や有用な異能の持ち主にはスカウトも行っている。
「良いの! 私がやりたくてやってる事なんだから。それに明冬をほっといたら、そんな物ばっか食べてるし心配なの!」
「じゃ遠慮なく食べさせていただきます」明冬はそう言うと弁当を開ける。
弁当の中身は色鮮やかで、振りかけがのったご飯・プチトマトやレタス・ハンバーグ、見た目にも美味しそうな弁当に秋穂は、フッフーンと得意げに腕を組む。
明冬がハンバーグに箸を入れるが、硬い。硬くて割れない。しょうがないので箸を刺し丸ごと口に頬張り噛む。硬い。
ハンバーグは柔らかく、噛めばジューシーな肉汁が溢れ出てくる食べ物だが、これは硬い。だが明冬は気にせず食べていく。
秋穂は文武両道で美少女で性格も明るく人々に好まれ、欠点など無いように思われるが、本人も気づいてない唯一の欠点がある。それは、メシマズなのであった。
「美味しい? それ手作りなの」と満面の笑みで尋ねてくる。
明冬は「美味しいよ、いつもありがとう」と返事するが、明冬にとって食べれて栄養もあれば何でも食べる。味は『どうでも良い』のだった。
「須川―、お客さーん」とクラスメイトが明冬を呼ぶ。
明冬は教室の出入り口に目を向けるとそこには、昨日の高木 ユキが立っていた。