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夕方、繁華街の雑踏の中、周囲には流行りのポップソングが流れ歩く人々の耳に届け、街全体を賑やかしていた。
道行く人々の中に、学校帰りの女子高生のグループがいた。
通りに連なる商店のウィンドウにはファッション雑誌で特集されている服を着たマネキンが各々ポーズをして飾られている。
グループの子達がウィンドウに張り付く様に覗き込んで、各々が感想をを述べている。
そのグループの内、一人の少女『高木 ユキ』は少し離れて皆と違う方向を向いて何かを見つめていた。
ユキは商店と商店の間の細い道の入り口にヒッソリある置き看板を見ていた。
そこに書いてあったのは【異能にお困りの方、ご相談にのります。 ストレンジ・グルーヴ】
ユキはグループの子達に用事を思い出したと嘘を吐きその看板が示す建物に足を運んだ。
ドアを開けると、ベルが乾いた高い音を出し来客の知らせを伝える。
ユキは入り口付近で職員が来るのを待った。
磨りガラスのパーテンションで区切られており中の様子は伺えない。
ちょっとすると、ガラスに人影が映りこちらへ向かってくるのが分かった。
その者はパーテンションの端からひょっこりと黒髪の頭ををした男子が出した。
目はアーモンド型で、目尻は僅かに下がって、眉は細くも太くもなく手入れをしている事が分かる。
少し幼さが残っているが精悍な顔付きで、ユキと同じ高校の制服を着ていた。
「いらっしゃいませ、ストレンジ・グルーヴへ、本日はどういったお悩みで、お越し下さいました?」
男子は名前に笑顔を向けて言った。
「えっと……明冬君だよね? ここでバイトやってるの?」
尋ねられた明冬は見覚えのある顔を見て誰であるかを考えているが、なかなか名前は出てこず頭を捻っている。
明冬達が通う高校の制服は色でその学年が分かる様になっている。
1年は赤で2年は青、3年は緑といった具合だ。男子はネクタイのラインで、女子はスカーフに色が付いている。
同じ青色である以上、同学年で違うまいと思うが考えても思い出せないのなら付き合いが無いのであろうと考えやめた。
「ごめん、思い出せなかった。話した事あったっけ?」
ユキは、そうだったという表情で答える。
「私、高木 ユキっていうの、夏希とは仲良くてたまに3組に遊びにきてるから明冬君を知ってて……」
夏希というのは、明冬の従姉妹で同じクラスの女子である。大人しい性格ではあるが、人付き合いは苦手では無いようで友達が多い。
だから見覚えのある顔だったかと思い至る。
「そうだったんだね、それで? 今日はどうしたの?」
「うん、それがねぇ……って疑問に答えてないよ」
「あははっ、バレたかぁー。まぁそんなとこかな、雇われ社長なんだ僕」
「凄いね! 社長なんだ」
「凄くないよ、雇われ社長だって言ったってさ、ココのオーナーが僕の叔父さんなんだ。学校の人には秘密だよ?」
「でも明冬君が居るとは思ってなかったから、ビックリしちゃった」
ユキは片手を口元に持っていき、フフフと笑っている。緊張がほぐれたのか、事務所に入ってきた時より随分と表情が柔らかくなっていた。
「お客様、今日はどういうお困り事ですか? こう見えてもプロですから、秘密は漏れませんので安心してお話ください」
明冬は演技かかった仕草で尋ねる。
ユキはまた表情が強張り俯いてしまった。
「うん、えっとね……。私のお父さんを探してほしいの」
視線を下に移すと、スカートの裾を握り皺を作っている。握りしめたては僅かに震えていた。