第7話 メリエス様、駄々を捏ねる
評価ブクマしてくれた方ありがとうございました。
多分これから面白くなってくる気がします。きっと。多分。恐らく。
「おっ、そろそろ着きそうじゃの」
更に数分歩き続け、遠くに見えていた町はもうすぐそこという所までやってきていた。
町の入り口には2人の警備兵が立っているのもここから確認できる。
「何をしておるのじゃ! さっさと行くぞ!」
そう言ってメリエス様は警備兵が立つ門の方へ駆け出した。
メリエス様は俺とのデートに興奮しているのだろう。
だが、はしゃいでしまう気持ちは分かるがこのまま行かせては色々と問題が出るのが分かりきっている。
「メリエス様、お待ちください」
「なんじゃ」
「そういえば、ここがどこか伝えておくのを忘れておりました」
そう、俺としたことがうっかりとここがどこかを伝え忘れてしまっていたのである。
「いくら聞いても無視しておったくせにいきなりなんじゃ?」
メリエス様はそう言って俺をジト目で見てきたが、俺がメリエス様を無視するわけなどないのできっとメリエス様の勘違いである。
「えーと、ですね。ここ人間界です」
「……ん?」
「だから人間界です」
「はっはー、面白い冗談じゃの」
ようやく俺の言葉を聞き取れたのかメリエス様は可愛い笑顔を俺に見せてそう言った。
だが、俺は嘘も冗談も一切つかない魔人なのである。
なので、俺はもう一度だけメリエス様に真実を伝える事にした。
「もう一度だけ言います。ここ人間界です」
すると、流石のメリエス様も俺の言ったことが嘘でも冗談でもない事に気付いたのか先程までの落ち着きっぷりが嘘だったかのように取り乱し始めた。
「き、き、き、貴様謀りおったなぁー! ゆ、ゆ、ゆ、勇者が私を狩りに来るぅー!」
「落ち着いてください、メリエス様。まだメリエス様が魔王になった事など人間界には知られてはいません。せいぜい魔人が来たと大騒ぎになって勇者がやってくるくらいです」
「そーれーでーもーダーメーじゃーろぉぉぉ! 帰る! 今すぐ帰るぞ! さっさと転移門を出せ!」
(もー、わがままなんだからメリエス様は)
駄々を捏ねる姿さえ可愛いのは言うまでもないが、目的があってここまでやってきたのだからこのままとんぼ返りするわけにもいかない。
メリエス様だけ帰すというのも不可能である。
だってそんなことしたら俺とメリエス様のデートがご破算になってしまうのだから。ここはメリエス様に我慢してもらうほか道はないのである。
「ほーら、行きますよ、メリエス様」
俺がそう言って自然と手を引っ張って、町の入り口の方へと歩いて行く。
「いーやーじゃーぁぁぁ!」
なおも抵抗を続けるメリエス様に俺は優しい声で諭した。
「メリエス様、冷静になってください。仮にこんなところで転移門でも使ったらそれこそ警備兵に見られて大変な事になりますよ」
というのも『転移門』は第1級~第7級まで存在している中の第2級魔法に属するゴリゴリの高位魔法なのだが、それ以上に習得難度がかなり高い魔法という事でも知られている。
人間界においては最早伝説クラスの魔法と言っても過言と言ってもいいほどに。
そんな魔法を人間界で使えばどうなるか?
メリエス様の危惧した「魔王だー、魔王が来たぞー」の大騒ぎとなるのが必定なのである。
「うぅ、確かに。じゃあここから離れて警備兵が見えない所まで行ってから使うのじゃ」
メリエス様にしてはなかなか悪くない提案である。
悪くないというのはあくまでメリエス様にとってであり、俺としてはとても困る話だ。
だってそんなことしたらデートができなくなるじゃないか。
まぁそれも今となってはいらぬ心配なのだが。
「残念ですがそれは無理ですね」
「何が無理じゃ! 貴様が嫌なだけじゃろうが!」
まぁ確かにそれもある。
だが、それを抜きにしたとしても無理なのだ。
俺の目線の先にはその無理な理由が今まさにこちらに向かって走って来ていた。
「おいっ、そこのお前! 止まれ! その少女をどこに連れて行く気だ!」
この街の警備兵はなかなか仕事熱心なようである。
どうやら俺の事を美少女攫いの変態だと勘違いしたらしく、鬼の形相でこちらに猛然と走ってきた。
(ふっ、見る目のない警備兵共め。俺とメリエス様の相思相愛ぶりも見抜けんとは)
ツンデレも見抜けない警備兵達を憐れに思いつつも、俺的には好都合なので今回だけは許してやる事にした。
魔法等は『魔王をするのにも飽きたので神をボコって主人公に再転生!』の設定とほぼ同じものを採用しております。気になる方はそちらの方を見て頂けるとありがたいです。
次回、ジレが警備兵に美少女攫い扱いされます。
ちなみに美少女攫いとは目についた美少女を片っ端から攫って行く変態の事です。