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賽銭箱の秘密

作者: 八嶋ルコバ

 町内に小さな神社がある。

 鳥居をくぐって、すぐ右手に手水場、数メートルで社殿と本当にこじんまり。

 

 私がこの町に越してきて一年。

 駅への通り道にある神社には、たまに手を合わせている。

 信心深いわけではないけれど。大切な会議がある日はゲン担ぎのつもりで。

 その日は上司へのプレゼンが待っていた。

 小銭入れがジャラジャラとマラカス並に鳴っていたので、賽銭箱にシャワーのように投げ込む。

 『ふぎゃっ!』

 なにやら、妙な声が聞こえた。

 賽銭箱を覗くが特に何もなし。

 気のせいか。

「プレゼンがうまくいきますように」

 そこそこ心を込めて願い、パンパンと柏手を打つ。

 顔を上げた時、後ろから声をかけられた

 見るからに神職の方。初老の男性が微笑んでいる。

 白髪交じりの短髪で、白い着物にワインレッドの袴。

 体はがっしり、なかなかに威厳を感じる。


「おはようございます。お参りご苦労さまです」

 しっかりと腰から曲げるお辞儀に、こちらも礼を返す。

「いま、変な声を聞かれましたよね。賽銭箱を覗いてたでしょう」

 気のせいじゃなかったのか。

「十分ほど時間はありますかの? これも神縁です。面白いものをお見せしますわ」

「はあ、まあ、その程度なら」


 神職さんは、たもとから鍵を取り出し、賽銭箱の裏に回った。

「ほとんどの人は、この箱を集金用としか思っとらんでしょ。でもね」

 箱の裏には二段の引き出しがあった。下の段を開けると小銭がそこそこ。

「ふむ、これなら来週に回収しても間に合いますな。問題はこっちじゃ」

 上の段を引く。

『うきゃー』

『きいきい』

 引き出しには、指先から拳サイズまでの気持ち悪い生き物がびっしり。

 鳴き声も不気味なら、体色も赤青黄と鮮やかだが毒々しい。

 血走った目、角、牙、鉤爪。虫のような鳥のような。姿形は様々だが、どいつも悪意の塊のようだ。

「邪鬼ですわ」

 神職さんは、模様の描かれた和紙を邪鬼に被せて器用に丸める。

 一掃された引き出しは底がすのこ。ははあ、これで賽銭が下に落ちるのか。

 神職さんは、まだキイキイと叫ぶ邪鬼の塊を、よいしょとビニール袋に放り込んだ。

「これはしかるべき業者に渡します。国の事業で神廃処理というのがあるんですわ」

 引き出しを元にもどして、手をぱんぱん。

「賽銭箱っちゅうのは、邪鬼ホイホイなんですわ。連中が集まる呪符を仕掛けておきましてな。参拝される方についてるやつらをここに封じるんです。うちは小さな社ですけど、ご覧の通り、霊験あらたか。これからもちょくちょくお参りに来てくださいな」

 

 どうにも不思議な気分のまま、駅へと向かった。

 その日のプレゼンは注文付きで予算削減ながら通過という微妙な成功。

 一応、願いはかなったので、明日あたりお礼参りに行ってこよう。



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