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柳瀬千紗都のプロデュース  作者: 青山竜祐
第一話 田舎じゃない!
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田舎じゃない! 1/5

「世界に誇る大都市よ!」

 柳瀬千紗都やなせちさとは右と左の束ねた髪をブンブン揺らして大声を張っている。俺は頬杖をつきながら、それを黙って見つめていた。

「いや、田舎やろ。ちいは大阪見たことないからそう言うんや」

 俺の隣に腰をかける安寿香あすかはお好み焼きに使うヘラをくるくる回している。ペンならまだしも、よくそんなでかいものを指で回せると感心する。日々「挑戦や!」と言っては新たな技の開発に勤しんでいるが、ヘラは料理に使ってこそ真価を発揮するのである。無駄遣いなんてしてないで、俺の空いた小腹を埋める努力を早よしろや。

柳都りゅうとこと大都市新潟を田舎呼ばわりだなんて、大阪人の見る目も落ちたものね!」

 千紗都は安寿香の背後に立つと、ツインテールの右束で攻撃を開始。

「やめてな、ちい、くすぐったいやろ」

「阿賀野ちゃんの攻撃に抵抗すらできないとは、この軟弱ものめ!」

 次は信濃ちゃんの攻撃、と千紗都は左側の束ねた髪で攻撃を食らわせる。痛くも痒くもなさそうだが、どうやらくすぐったいようで、安寿香は笑いをこらえていた。

どこの世界に自分のツインテールに名前を付けて振り回す馬鹿がいるのやら。

 桜の花びらも散り、ゴールデンウィークよ早く来いと願う日々。だが、結局のところ予定なんてない。クラスメートたちは揃いも揃って、「わりい、部活」「予備校の合宿」などと、ふざけたことばかりぬかしやがる。

 俺みたいにもっと楽天的に生きろ。そうすりゃもっと人生が楽しくなるぞ、と心の中で激しくまくしたてた。口に出して言えないのは、一年次の期末試験で最下位すれすれの順位になってしまったためである。

 ……もっとも、俺は俺で勝手に予定を組まれるのだろうと察していた。

 この馬鹿が連休に予定を組まないはずがない。

「イベント尽くめよ!」とか、

「ひゃっほい、遊びまくるわよ!」だの、

「あの街があたしを待ってるわ!」やら、言うに決まっている。事実、この間の三学期もそうだった。進級前に千紗都に付き合わされ、街中を歩き回れば遊び回り、ついに俺の成績は真ん中よりやや低めから、どん底へと落とされたのである。

 まったくもって憤慨する。いくらなんでも試験直前に百貨店の週末感謝デーに誘うなっての。

 さらにムカつくことと言えば、件の犯人である彼女は成績上位を維持しているのだから、無性に腹立たしくなるのも致し方ない。

 千紗都はばっとこちらを向いた。

蒼介そうすけはどっち!?」

「は? 俺?」

 いずれ話を振られることはわかりきっていたが、そんなの、この変態馬鹿に同調しなければ面倒になることは必然である。

 どうしたものかと悩んでいると部室の扉が開く。

「遅くなりました……」

 仁菜になちゃんは今なお髪を振り回す千紗都の狂気を見て固まってしまった。

「あ、ニーナ。いいところに!」

 お前にとって都合がいいことは、多くの人間にとってげんなりすることである自覚を早く持て。

 まだ席に着いてもいない仁菜ちゃんの肩をがっしり掴み、顔を近づけている。おいこら、あと少しで唇と唇が触れ合っちゃうぞ。五、四、三……。

「ねえ、ニーナはどう思う?」

「え?」

「どっちだと思う!」

 なにについて話していたかを説明してあげろよ。

 仕方なく席を立ち、阿賀野ちゃんと信濃ちゃんを引っ張る。

「いた、いたた! 痛いわよ、なにすんの」

「もう議題はそれでいいんじゃねえの?」

 一瞬目を丸くするものの、千紗都は越後平野のような平らな胸を張って鼻から息を吐き出した。

「そうね、一度は決着をつけなきゃいけない話だものね。今までやってこなかったことがおかしいくらいだわ」

 千紗都は大股で正面の席に着く。

 仁菜ちゃんも席に着くと、俺たちに訊いてくる。

「あの、なにがあったんですか?」

「ケンカや」

 安寿香が答える。

「ケンカ?」

「もうすぐわかるで」

 安寿香はふんぞり返る。

「千紗都がなにに腹を立てているのか、それが今日のお題だろうから」

 俺が代わりに答えると仁菜ちゃんは肩を震わせる。

「はい、わかりました」

 ショートヘアで包まれた小顔がさらに小さくなったようだった。

 仁菜ちゃんは男性が苦手なのか、年上が苦手なのか、はたまた俺が苦手なのかよくわからないけど、とにかくまだ苦手意識を持たれている。なんとかして距離を縮めたい。気に食わないのはそんな彼女が、あのデリカシーゼロのツインテールを好いていることだ。この馬鹿と俺の違いってなんだよ。

 再度扉が開いた。

「僕が最後か。ごめんね、遅れて」

 亘希こうきさんは静かに扉を閉める。

「よく来た副団長。ほら、早く早く」

 千紗都は横のパイプ椅子を引いた。

 亘希が着席したのを確認し、千紗都はこほん、と咳をする。

「えー、ではこれよりNDDエヌダブルディーの活動を始めます」

 五人が揃ってすぐ会議に入るとは、どれほど拘りが強いんだか。ともあれ、今日もNDDの活動が始まる。ちなみに俺は言いにくいのでエヌダブルディーではなく、エヌディーディーと呼んでいる。

 さらにちなみに言えば、こいつの前でそう言うと怒られるので要注意だ。

「はーい、みなさん。それじゃあ今日は、そこのお馬鹿ちゃんにこの大都市の素晴らしさを叩き込みます」

 郷土研究部こと通称NDD――正式名称、「新潟大好き団」の活動が今日も始まる。

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