その7 議長選出
え、まだ議論始まらないの?
「では、本件に関し、議長を選出します」
木葉の言葉とともにクラス全員が首を傾げた。
「咲ちゃんがそのままやればいいじゃん」
木葉のギャル仲間、岸本麻衣がそう言うと、「だめだめ」と木葉が肩をすくめた。
「私、高橋に試験勉強じゃお世話になってるんで、頭が上がらない」
「俺も和井田とは幼馴染だ」
木葉に続いて、荻野もそう告げた。「え、お前幼馴染だったの?」という驚きがクラスメイトに広がったが、些細なことなのでさておく。
とにかく、委員長、副委員長とも、当事者二人と距離が近く、公正な議事進行は期待できなかった。
「んじゃ、誰がやるの?」「あの二人に対して中立的な立場の人って?」「いたっけそんな人?」「高橋さん、クラスのお姉ちゃんだしなあ」「いやいや、いるっしょ」「ああ、一人いるね」
ひとしきりざわめいたのち、三十二名中三十名(一名は自分の世界へトリップ中)の視線が一人の女子生徒に集まった。
「……んだよ?」
「来賀ちゃん、議長お願い」
「なんで私が」
木葉の依頼に、彼女は嫌そうな顔をした。
来賀誠、テキヤの娘。常にトップグループの成績を誇る優等生だが、物言いがきつく誤解を招きやすい女子だ。しかしそのクールさがいい、と一年生の女子には絶大な人気を誇っていた。
「だって来賀ちゃん、高橋とめっちゃ仲悪かったし」
「今は仲直りしてるだろうが……」
言われると思ったよ、という顔で来賀はこめかみを押さえた。来賀は、高橋由紀の人当たりのよさが八方美人に見え、大嫌いだったのだ。一年生の時はクラスが別だったのでそこまで気にならなかったが、二年生になり同じクラスになるとどうにも我慢できなくなり、一ヶ月ともたず衝突したのである。
もちろんそれは誤解とわかり、今は仲直りしている。
「それに、仲悪かったらそれはそれで公平じゃないだろ」
「いやー、うちのクラス、高橋大好きっ子多いから、ブレーキ役として」
うんうん、とうなずくクラスメイトを見て、来賀はため息をついた。親友の平山や、木葉を筆頭に何かと高橋由紀に助けられている女子が多い。男子にいたっては三分の一が恋していると言っていい。
公正に議事を進行できそうなのは……確かに来賀だけだった。
「ああもう。わかったよ、やるよ」
「さっすが来賀ちゃん、よろしく!」
「それはそうと、和井田の方はいいのか?」
「あ、そっちは大丈夫。みんな客観的」
「ひでえな、お前ら」
「恋はね、女の子の方が重大事なの!」
あーそーですか、と来賀はため息をつき、仕方なく席を立ち前に出た。それと入れ替わりに、木葉と荻野は席に着く。
「来賀、これを」
「……ありがとよ」
来賀が教卓前に立つと、新聞部・桜田が「議長」のプレートを持って来て置いた。準備のいいやつだ、とあきれながら一同を見渡し、来賀は宣言する。
「では、和井田健と高橋由紀、この二人を恋人同士にする方法について、議論を開始する。発起人!」
「おう!」
「なんか色々あったので、改めて趣旨説明を行ってください」
「了解した」
来賀の指名を受けて、新聞部・桜田が立ち上がった。
すぐさま高橋由紀の親友・平山が手を挙げる。
「議長、そこのヘタレの話はもういいです。議論に入りましょう!」
「了解した。発起人、着席してよし」
「だったら指名すんなよ!」
なんだか妙に慣れてませんか、あなたたち?




