その4 続々・趣旨説明
女子はシビアです。
新聞部・桜田、タマシイの叫びに、誰もが近くのクラスメイトと顔を合わせた。
「あー、要するに」
そうつぶやいたのは、佐々岡陽菜。「次に来るブランド品」の発掘を趣味とする良家のお嬢様。その高潔さゆえか、容赦なく魂をえぐる言動で人の心を踏みにじるが、一部の男子に熱狂的なファンがいる。
「生殺し状態が辛いから、早くとどめを刺してくれ、てこと?」
「う、うむ……まあ、そうなるな……」
「めんどくせーな、お前」
佐々岡に同調し、大半の女子がうなずた。
「そこは友人のためとか言えって感じ」「あー桜田ってちょっと情けない」「でも邪魔はしないんだ」「ヘタレってことじゃない?」「ちょっとは言い繕えっての」
女子のヒソヒソとした話し声が新聞部・桜田を攻め立てる。まさかのピンチに陥った新聞部・桜田は、「いや、そうじゃなくてだな、待ってくれ、話を聞いてくれ」としどろもどろになった。
「いいですか」
そのとき、ピシリと手を挙げて発言の許可を求めた女子がいた。
「はい、海老澤」
海老澤菜月。昨年入学と同時に漫画愛好会を立ち上げ、今年になって部員十五名を集めて一気に部への昇格を勝ち取ったやり手の女である。ちなみに彼女が描く漫画はBLで、校内で発表したことはない。
「現時点で我々女子は、和井田くんはともかく、高橋さんを応援する理由を見い出せないのです」
うんうん、と女子全員がうなずいた。
「彼女はモテます。そんな彼女があれだけ慕っているのです、わざわざ応援しなくてもそのうちくっつく、と思うのは当然です」
「そうそう」
「わざわざつついた方が失敗するって」
海老澤の発言に同意したのが、宇田皐月、河合杏里の両名。いずれも帰宅部であり、早く帰りたいようだ。
「応援が必要なのは和井田くんです。そして我々女子は、和井田くんを応援する義理はないのです。桜田くん、クラス全員で取り組むというのであれば、まずこの点をクリアしなければなりませんが?」
「う、むむ……」
海老澤の指摘に新聞部・桜田はうなった。確かにその通りである、新聞部・桜田なら、脈ありと気づいた時点で自分から告白してしまうだろう。
「これは二人の問題ではなく、和井田くんの問題。男子が応援するのは止めませんが、クラス全員でというのは……」
「いや、ちょっと待ってくれ、海老澤」
そこへ口を挟んだのが、美術部部員の三浦兼五郎だ。書道部の武久同様、数々のコンクールで受賞している凄腕の美術部員である。
「応援が必要なのは和井田。海老澤、お前はそう言ったな?」
「それがなにか?」
「それはつまり、和井田より高橋の方が上の立場である、という前提。女子は概ね、和井田のことはその認識か?」
三浦の言葉に、女子が「うんまあ……」「あんまり冴えない感じだし」と口ごもりながら答えた。はっきり言って、和井田健は女子にモテる要素が皆無の男子だった。
「ああ、私は違うよ」
女子の中で唯一その雰囲気に同調しなかったのが、武久である。
「ふむ、お前は知っているんだな」
「まあね、ジャンルは違えど芸術の世界に生きる身だし」
「どゆこと?」
木葉が首をかしげて二人に尋ねた。
「うむ、では語ろうか。高橋さんが告白をためらっている、その理由を」
「は? 高橋が?」
びびってんの和井田じゃないの?
そんな木葉の表情に、三浦はニヤリと笑った。
次回、和井田ターン