その2 趣旨説明
まずはここが気になります。
掲げられた議題を見て、クラス全員が同じことを思った。
達筆!
「新聞部、あんたが書いたの?」
「いや、彼女だ」
新聞部・桜田は廊下側から二列目最後尾に座る、武久由美を示した。なるほど、とクラスメイト全員が納得する。参加した書道コンクールで必ず賞をもらうと噂の、凄腕の書道女子高生だ。
「てぇことは、由美もこの議論に賛成?」
「うん、さんせー。なんかおもしろそー」
ポニーテールをゆらゆらさせて、武久はニコニコ笑った。いつもニコニコしているせいか、彼女はクラスで二番目にモテる女子である。だが油断してはいけない。その言動の奇抜さは群を抜く。
「おいおい桜田、その議題、まじか」
「ああ、心の底から真面目だ」
新聞部・桜田は、声をあげた男子を見た。
サッカー部の万年補欠、相川陽一。性格も技術も申し分ないのだが、肝心な時にポカをする、使えそうで使えない微妙な男だ。
「すると、お前は高橋さんを諦めるんだな」
その隣にいた、相撲部所属、綾小路京介がどっしりとした口調で問いただした。こんな名前で百キロを超える巨体の男である。名前のイメージを大切にしてほしいものだ。
「それを今ここで言わせるのか?」
「そうでなくては議論にならん」
新聞部・桜田と綾小路が、一瞬火花を散らした。他のクラスメイトが、その緊迫した様子に息を呑む。
「……確かに、私は高橋さんに恋心を抱いていた」
新聞部・桜田はクイッとメガネを直し、胸を張って綾小路に向き直る。
「だが認めよう! 私は敗北した。高橋さんは、この私のことを、一顧だにしていない!」
おお、とクラスの男子がどよめいた。なんという潔さ。まるで血の涙を流すような慟哭の宣言に、新聞部・桜田と同じように高橋由紀に恋心を抱いていた男たちが涙した。
「その潔さ。お、お前男だよ。すげえよ!」
「じ、実は俺もだ……ああ、わかってるよ、俺は認めるのが怖かったんだ。だが、ちくしょう、桜田が認めるんじゃ認めるしかない!」
「俺もだ。ああ、でも桜田、お前のおかげで俺も吹っ切れたぜ!」
むせび泣き、互いを慰め合うように肩を叩く男子たち。その熱は次第に男子たちを包んでいき、いつしか肩を組んでの男泣きとなっていた。
そんな男子たちを、女子たちは冷ややかに見つめ、ため息をついた。
「いや、意味わからん」
「置いてけぼりなんですけどー」
女子たちのブーイングを受け、新聞部・桜田は涙を拭い女子に向き直った。
「い、いやすまん、ちょっと感極まって」
「で、あんたが振られたからって、なんで他人の恋路の応援をクラス中でしなきゃいけないわけ?」
至極もっともな意見を述べたのは、体操部の岡部美也。元気一杯夢一杯、ついでにお腹もすぐ一杯の、おにぎり一つで一日走り回る、時代が求めるエコ女子だ。
「そ、そうだな。ではまず、それから話そう」
男と女はわかりあえないのでしょうか。